評価:★★★★☆
カラマーハ帝国軍の侵攻で危機に瀕したイシヌ王国。しかし、ジーハ帝に嫁すべく帝家へ赴いた王女ラクスミィが、"夫" を廃して自らが帝位に就き、帝国を掌握することに成功するまでを描いたのが前作『幻影の戦』。
それから6年。国を潤す大河である ”青河” の水位が低下し始めた。それはこの「火の国」全体の命運を左右する危機を意味していた。
水位低下の原因は、"砂の領" に暮らす「見ゆる聞こゆる者」たちが、自分たちの生存のために新たな水路を建設したことにあった。
そしてイシヌ王家に激しい憎悪の念を抱く「見ゆる聞こゆる者」の頭領ハマーヌは、ラクスミィの駆る "万骨の術" を凌駕する "月影族の秘術" を身につけ、最強の丹術士となっていた・・・
『水使いの森』シリーズ、第三巻にして完結編。
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舞台は「火の国」と呼ばれる世界。いわゆる「魔道師」に相当する者は、この世界では "丹術士" と呼ばれる。
西方にある "砂の領" はイシヌ王家が、中央にある "草の領" はカラマーハ帝家が支配している。
皇帝ジーハは、イシヌ王家がもつ "治水の力" を我がものにすべく、侵攻を仕掛けてきた。圧倒的な戦力差にイシヌは降伏することに。
しかし、ジーハ帝に嫁ぐべく帝家へ赴いた王女ラクスミィは "夫" を廃して自らが帝位に就き、続く内乱を制して帝国を掌握することに成功する。(前作『幻影の戦』)
そして完結編となる本書は二部構成になっている。
第一部は、前巻『幻影の戦』と同時期の物語。
カラマーハ帝家の侵攻は "砂の領" 南部にも及んだ。そこにある "南境ノ町" は「見ゆる聞こゆる者」たちの本拠地。
彼らはかつて "砂の領" を支配していた一族に連なる者たちで、イシヌ王家に対して深い恨みを抱いている。
その一人で、第一巻『水使いの森』に登場していたハマーヌは〈式要らず〉の異名を持つ屈指の丹術士だった。そして10年後の今は「見ゆる聞こゆる者」たちの頭領となっていた。
カラマーハ帝国軍との戦闘で重傷を負ったハマーヌは、回復の途上で "月影族の秘術" に触れることになる。そして "新たな力" を得たハマーヌは、帝国軍を一気に駆逐してしまうほどの強大な丹術士となっていた。
第二部は、その6年後の物語。
「火の国」を潤す大河・青河(せいが)の水位が低下し始めた。それはこの世界全体の命運を左右する危機を意味していた。
帝都の地下には、巨大な "丹" の塊である乳海(にゅうかい)が存在し、それは水底に沈んでいることで安定を保っていた。
このまま青河の水量が減っていくと地下水の水位も低下する。もしも乳海が空気に触れると大爆発が起こり、広大な「火の国」全体が人の棲息できない地と化してしまう。
水位低下の原因は、"砂の領" に暮らす「見ゆる聞こゆる者」が、自分たちの生存のために青河の水源から "南境ノ町" へ向けて新たな水路を建設したことにあった。
ラクスミィは水源確保のために、軍を率いて "南境ノ町" へ向かう。
しかし自らの一族の生存のために、ハマーヌたちは一歩も引くことはできない。千年にわたって圧政を受けてきた「見ゆる聞こゆる者」には、"世界の安寧" を訴えるラクスミィの言葉さえも虚しく響くのみ。
そしてハマーヌが身につけた "月影族の秘術" は、ラクスミィの駆る "万骨の術" を凌駕するものだった・・・
第一部のハマーヌ、第二部のラクスミィと、二人が繰り出す「究極の丹術」の応酬の描写は迫力に満ちていて、ファンタジーを読む楽しさを存分に味わわせてくれる。
両雄の激突が「火の国」に何をもたらすのか、そして前巻のラストで姿を消したイシヌ王家当主にしてラクスミィの妹・アラーニャがどんな運命を選んだのか。そのあたりは、ぜひ読んで確かめていただきたい。
全三巻で、火の国の覇権と治水を巡る戦いには一旦終止符が打たれるが、すべてが解決したわけではない。得られた平穏も永続する保証はなく、波乱の要因はいくつも残されている。
しかし次の世代を担う(であろう)キャラたちも多く登場していることから、彼ら彼女らに望みをつなぐことになるのだろう。それゆえに、10~20年後あたりにまた新たな物語が始まってもおかしくない。
いつの日か、この世界の続編が読めたらいいな、と思っている。
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