巨人たちの星

SF


巨人たちの星 巨人たちの星シリーズ (創元SF文庫)

巨人たちの星 巨人たちの星シリーズ (創元SF文庫)



  • 出版社/メーカー: 東京創元社

  • 発売日: 2023/09/11









 月面上で発見された宇宙服を着た死体。しかしその推定年代は五万年前・・・という魅力的な謎から始まった『星を継ぐ者』。

 かつて存在した惑星ミネルヴァに生まれた知的生物ガニメアン。2500万年前に太陽系を旅立った彼らの宇宙船〈シャピアロン〉号が、相対論的時差によって現代の太陽系に帰り着き、人類とファースト・コンタクトを果たした『ガニメデの優しい巨人』。



 新天地へと移住していったガニメアンたちを追って〈シャピアロン〉号が太陽系を離れた直後、冥王星の彼方から通信が届き始める。どうやら地球は、遙かな過去からガニメアンによって監視されていたらしい・・・



 名作SFシリーズ、第三作。



* * * * * * * * * *



 ガニメアンたちが移住先として選んだのは、地球から20光年離れた星系と思われた。〈シャピアロン〉号は仲間を追い、そこに存在する〈巨人たちの星〉を目指して太陽系を旅立った。



 しかしその直後、〈巨人たちの星〉にいるガニメアンたちから地球に通信が届き始める。しかも、"彼ら" は〈シャピアロン〉号とまだ接触していないはずなのに、地球のデータ転送コードに則り、なおかつ英語でメッセージを伝えてきたのだ。



 どうやら地球は、遙かな過去からガニメアンによって監視されていたらしい。国連は通信チームを組むが、各国の足並みの乱れから交信計画は遅々として進まない。



 ガニメアン関係の調査チームを束ねる物理学者ヴィクター・ハント博士たちは、独自にガニメアンとの通信回線を開くことに成功した。これにより、アラスカの基地へ "彼ら" の宇宙船がやってくることに。



 その宇宙船内で、改めて "コンタクト" を果たしたハントたちは、新たな事実を知らされる。

 ガニメアンたちはテューリアンという統一政府をもつこと、周辺のいくつかの星系にも植民を果たしていること、地球の監視は、惑星ジェヴレンの住人たちに任されていたこと・・・



 そしてなぜかテューリアンは、地球人に対して過度の警戒心を抱いているようだ。その原因は、ジェヴレン人の "報告" にあった。そこに描かれていたのは、現在の状況とはかけ離れた地球人の姿だったのだ・・・




 物語はこの後、ジェヴレン人の正体、その遠大な野望、それに対抗しようとする地球側、テューリアン側の攻防を描いていく。





 『星を継ぐ者』の記事にも書いたが、本書の刊行は1981年。なんと40年以上も前の作品だ。ソビエト連邦が国家として存続していたり、冷戦状態はとっくに終わり、思想的・宗教的対立も過去のこととなって世界が平和になり、軍縮で余った予算が宇宙開発に転用されているなど、作品内に描かれた2030年代の地球の姿は現在と比べると平和すぎて苦笑してしまう。



 しかしそれ以外の部分、特にデータネットワーク社会の描写は、今読んでも全く古さを感じさせない。

 本作ではさらに、ヴァーチャル・リアリティ、CGを駆使したフェイクニュース、仮想空間内での "戦争" などが登場する。これら40年前には空想の産物だったであろう技術が、現代では実用化されてしまった。

 改めて読み直してみると、個々のシーンが容易に想像でき、より深く理解できるようになった。そういう意味では、今だからこそ読む価値があるとも思う。



 ガニメアンたちは2500万年前に太陽系を離れたにもかかわらず、生物学的な外見はほとんど変化(進化)しておらず、科学技術も進歩してはいるが2500万年もの時間差があるとは思えない。読んだ感じでも、その差はせいぜい数十年~百年くらいというところ。

 しかしそこはハードSFの巨匠ホーガン。しっかり、そのあたりの理由も説明されていく。これもなかなか意外な経緯が潜んでいる。



 前二作では、男性キャラばかり目立って女性はほとんど存在感がなかったのだが、本作では女性が大活躍する。

 国連宇宙軍本部長の秘書でハントの恋人でもあるリン・ガーランド、国連の合衆国代表カレン・ヘラーは、それぞれストーリー展開で重要な役割を担う。



 本書が刊行された1981年は『スターウォーズ』ブームの真っ最中(『帝国の逆襲』の公開が1980年)。そのせいかは分からないが、クライマックスではスターウォーズ並みの大艦隊が宇宙を飛び交う。このあたりも読みどころだろう。





 ラストでは、地球とテューリアンが手を携えて新たな未来へと歩み出すまでが描かれて大団円となる。

 当初はここで終わって「三部作」とされていたが、この10年後の1991年には第四作『内なる宇宙』、2005年には第五作 "Mission to Minerva" が刊行された。



 『内なる宇宙』は手元にあるので近々再読するつもり。第五作は『ミネルヴァ計画(仮題)』という名で邦訳刊行予定とアナウンスがあって、23年末か24年頭くらいの刊行のはずがまだ出てない。

 いつになるんでしょうかね? ていうかホントに出るのかな?





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