評価:★★★★
霞山大学法学部生・古城は無料の法律相談所を開いている。そこへ現れたのは経済学部生の戸賀。下宿先の "怪事" に悩まされていたのだ。
それ以来、戸賀は古城の助手を自称し、相談所に持ち込まれる事件に首を突っ込むことに。
現役弁護士が描く、リーガル・ミステリの連作短編集。
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霞山(かざん)大学法学部四年の古城行成(こじょう・ゆきなり)は、学生相手に無料の法律相談所(”無法律”)を開いている。そこへ現れたのは経済学部三年の戸賀夏倫(とが・かりん)。彼女は下宿先の "怪事" に悩まされていた。
それ以来、戸賀は古城の助手を自称し、相談所に持ち込まれる "事件" に首を突っ込むことに。
「六法推理」
戸賀は事故物件のアパートに住んでいる。前の住人の女子大生が首吊り自殺した部屋だ。彼女は妊娠しており、出産した形跡はあるものの赤児の姿はなかったという。
戸賀はそれを承知で住んでいたのだが(家賃が安いから)、最近になって赤ん坊の泣き声が聞こえるようになった。誰かの嫌がらせなのかも知れないが・・・
女子大生の自死の理由が意外きわまる。確かにこれは法律がらみの事件だと思わせる。
「情報刺青」
経済学部三年の小暮葉菜(こぐれ・はな)は、リベンジポルノを晒されていた。"無法律" に相談に現れた彼女は投稿者を突き止めることを宣言、特定までの経緯を動画で記録し、YouTube で公開するという・・・
泣き寝入りなんて論外とばかりに戦う女・葉菜さんの執念に驚かされる一編。
「安楽椅子弁護」
一年前の学園祭の直前、備品を納めてあった倉庫が火事になった。学園祭の実行委員会のメンバーだった三船は、そのとき顔面に大やけどを負ってしまった。
相談を受けた古城は、実行委員会が法人格を有していたことに目をつけた。実行委員会を相手に倉庫の管理責任を問う損害賠償を起こすことにしたのだ。
ただし、古城は学生の身。弁護士資格を持っていないので、三船自身が訴訟を起こし、そのブレーンに納まることにしたのだが・・・
放火の可能性を巡るミステリとしての側面も面白いが、それよりも古城の弁護士的手腕というか、依頼人にとっての最大利益を引き出すための駆け引きがよくできてる。個人的には本書のベストワン。
「親子不知」
待ち合わせていたカフェに戸賀が連れてきた相談者は、看護学科三年の鈴木椰子実(すずき・ここな)。彼女は実の母親と "縁を切りたい" という。ちなみに父親はとっくの昔に離婚して音信不通とのこと。
キラキラネームをつけられたことから始まり、家事をしない、金遣いが荒い、男を連れこむ。今は生活保護を受けていて、娘からも金を巻き上げようとしている。しかし今の日本の法律では、血縁のある親子の絶縁は認められていない。
そのとき、隣のテーブルにいた年配の女性が「"オヤコシラズ" というサービスがある」と言い出した。どうやら "絶縁代行" を請け負うビジネスがあるらしいのだが・・・
ここから意外な展開となるのだが・・・本書の中でいちばん救いのない結末だなぁ・・・
「卒業事変」
大学は後期試験に突入した。古城にとっては大学最後の試験だ。
そんな中、"無法律" に現れた小暮葉菜から、意外なことを聞く。戸賀にカンニング疑惑が掛けられているのだという。
そこから事態は、かつて古城も関わりを持った一年半前のセクハラ事件につながっていくのだが・・・
本書の最期に置かれているが、以前の事件の関係者も顔を出し、"カーテンコール" 的な雰囲気も漂う。
主人公・古城行成は父が裁判官、母が弁護士、兄が検察官という法曹一家に生まれた。自身も法律を専攻しているが、将来どうするかは決めかねているモラトリアム人間。
法律の知識は充分に持ち合わせていて、論理を組み立てる力にも長けているが、人情の機微には疎い面がある。
それに対して、相棒の戸賀夏倫は洞察力と推理力に優れている。
本書は、得意分野が異なる二人の探偵役が互いの短所をカバーしながら真相に近づいていく、というパターンで進行していく。
二人が議論を戦わせるシーンでは、いくつかの仮説が提示されていく。要するに一種の多重解決ものでもあるわけだ。お互いに頭の回転では引けを取らないが真相に到達するのは戸賀の方が一歩早いのはご愛敬だろう。
古城の卒業で "無法律" も閉店かと思いきや、無事に続くことが判明する。続巻も刊行されているみたい。文庫になったら読みます(笑)。
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