パラダイス・ガーデンの喪失



パラダイス・ガーデンの喪失 (光文社文庫 わ 10-15)

パラダイス・ガーデンの喪失 (光文社文庫 わ 10-15)



  • 作者: 若竹七海

  • 出版社/メーカー: 光文社

  • 発売日: 2024/02/14

  • メディア: 文庫








評価:★★★





 神奈川県葉崎市にある私設庭園〈パラダイス・ガーデン〉で、身元不明の高齢女性の遺体が見つかる。自殺とみられたが、庭園のオーナー・兵藤房子には自殺幇助の疑いが降りかかる。

 さらに〈パラダイス・ガーデン〉を潰して老人ホームを建てるという偽情報を使った詐欺が横行しはじめ、殺人事件、誘拐と複数の事件が続けて発生する。

 一癖も二癖もありそうな住民たちによって渾沌の巷と化した羽崎の街。もつれた謎を解くほぐすのは、これまた超個性的な警察官・二村貴美子警部補だ。



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 相模湾に面した架空の街・葉崎(はざき)市を舞台にしたシリーズの一編。とはいっても物語は各編ごとに独立しているので、本書から読み始めても全く問題はない。





 葉崎市にある私設庭園〈パラダイス・ガーデン〉で、身元不明の高齢女性の自殺死体が見つかり、オーナーである兵藤房子には自殺幇助の疑いが降りかかる。



 同じ頃、〈パラダイス・ガーデン〉を潰して老人ホームが建つという噂が流れ始める。この偽情報を使ってホームの入居金を集める詐欺行為が進行しているらしい。



 序盤から中盤は様々な住民が登場し、各個人間の関係や、過去の葉崎市で起こった事件が語られていく。もちろんこのあたりはしっかり伏線になる。



 そして中盤で殺人事件が起こり、同時に誘拐事件も進行していたことが明らかになる。誘拐事件の対応で手一杯の葉崎署が殺人事件の捜査に差し向けたのが、本書の探偵役となる二村貴美子警部補。



 恰幅の良いガタイで、のしのしと警察署の中を闊歩する。本作はコロナ禍の最中の事件という設定のため、彼女は常にフルフェイスのサンバイザーを着用している。そのため、ぱっと見は80年代B級SF映画のロボットのように見える(私が連想したのは『ロボコップ』だ)。

 自宅には滅多に帰らず、駐車場に駐めた改造軽自動車に寝泊まりし、時にはその中でBBQまでやってのけるなど好き勝手し放題。まさに "葉崎署のヌシ" だ。



 兵藤房子の幼馴染みたちはそれぞれ個性的で、葉崎市のあちこちでドライブインやお茶屋を経営している。

 引退したキルト作家・前田潮子、その近くに住む遠縁の青年とその恋人は、密かに潮子の資産を狙っている。

 リモートワークでずっと家にいる夫が我が儘いっぱいで怒り心頭の主婦・熊谷真亜子は、ママ友・原沙優との語らいに癒やしを見いだす。

 義成定治は一見すると杖を突いた老人だが、その正体はベテラン(?)の空き巣泥棒。

 高校生の児島翔太郎とその悪友・榛原宇宙は、なにやら良からぬことを企んでいる。

 そして誘拐事件捜査で行き詰まった葉崎署では、無能な上層部が暴走し始める。



 そして「"日本一有名な殺人容疑者" こと白鳥賢治」という男が、物語のあちこちで顔を出す。実は二村警部補は白鳥と因縁浅からぬ仲にあり、〈パラダイス・ガーデン〉で見つかった自殺死体の女性が白鳥の妻と似ていることに気づくのだが・・・





 一癖も二癖もある登場人物たちが複数の事件に関わり、葉崎市は渾沌の巷と化していくのだが、終盤に至るとそれが綺麗に収束していくのは見事。

 こんな大人数で、行動や思惑もバラバラな連中をきっちり交通整理してみせた作者の構成力には脱帽だ。



 もちろんミステリとしてもよくできてる。途中でばら撒かれたパズルのピースが終盤に入ると次々にハマりだし、それによって意外な事実が暴露される。

 二転三転していた自殺死体の正体も、殺人事件の真相も、誘拐事件の黒幕も一気に明らかに。まさに「お見事!」と声を上げたくなる。





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