評価:★★★
鉄道ミステリ傑作選、第三弾。五編を収録。
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「『雷鳥九号』殺人事件」(西村京太郎)
文庫で約130ページと、本書の半分を占める中編。
大阪発金沢行きの特急『雷鳥九号』の車内で、会社社長・羽田真一郎の射殺死体が発見される。車掌の証言から、事件直前の被害者と車内で話していた女性・三浦由美子が容疑者として浮上、逮捕される。凶器の拳銃は下り線路の近くで発見された。しかし彼女は黙秘を貫いたまま裁判に臨むことに。
ところが金沢市内で代議士の射殺死体が発見され、凶器が羽田殺害と同一の銃と判明する。しかも、死亡推定時刻から逆算すると、三浦由美子が大阪を発つ前に金沢で使用されていたことになる・・・
いわば "拳銃のアリバイ"。拳銃発見現場へ赴いた十津川警部が、行き詰まった捜査の突破口を見つけるという、二時間ドラマそのまんまの展開。でもよくできてる。
「『殺意の風景』隆起海岸の巻[鵜の巣断崖]」(宮脇俊三)
文庫で13ページほどの掌編。
愛人・K子を殺害すべく、綿密なアリバイ工作を用意した "私"。二人で東北新幹線に乗って盛岡へと向かう。いくつか予想外の事態に遭遇するも、計画を細かく修正していく "私"。そして "その瞬間" がやってくるのだが・・・
「『殺意の風景』石油コンビナートの巻[徳山]」(宮脇俊三)
こちらも文庫で13ページほどの掌編。
(国会議員と思われる) "私" は、飛行機が満席と云うことで夜行列車で帰京することに。同行していた建設会社の社員は、"私" に徳山コンビナートの視察を勧める。途中下車しても、山陽新幹線を利用すれば、またこの列車に乗れるのだというが・・・
二作とも、短いながらも意外かつ皮肉な結末を迎える。
「準急『皆生』」(天城一)
ファッションデザイナー・江迎登志子(えごう・としこ)の絞殺死体が発見される。容疑者に浮上したのは、大阪でファッションの店を経営する船越昭三(ふなこし・しょうぞう)だった。
しかし彼はアリバイを主張する。中国地方の山歩きに出ていて、岡山の新見駅で準急『皆生』に乗り遅れてしまった。そのため、犯行時刻までに東京へ着くことはできなかったというのだが・・・
時刻表が三枚も挿入されるなど、なかなか込み入っている。私は時刻表があまり好きではないので往生したが、真相は意外にシンプル。
「浜名湖東方一五キロの地点」(森村誠一)
朝田申六(あさだ・しんろく)は大学生。親の仕送りで何不自由なく暮らしているが、欲求不満に苛まれるという、なんとも贅沢な悩み。
時代は70年安保闘争の頃。若い人は知らないかなぁ。判らない人はグーグル先生に聞いてください(笑)。
朝田は思想的にはノンポリなのだが、彼が思いついたのはなぜか来日している海外要人の暗殺(おいおい)。
特別列車に仕立てた新幹線で東京から大阪へ向かう要人を殺すために、朝田はある方法を思いつく。手製の爆弾を用意してことに臨むのだが・・・
いくら日本の鉄道が時刻表通りきっちり運行するからと行って、これで成功するとはちょっと思えない。けどまあ、彼にとっては実行することに意味があるのだろう。
そして結果はまさに因果応報。テロで歴史は変えられない(と信じたい)。
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