評価:★★★
極度の弱気で引きこもりの名探偵・音野順。その助手にしてミステリ作家の白瀬白夜は、事件のたびに苦労して相棒を引っ張り出して解決へと導いていく。
シリーズ第三弾の短編集。4作を収録。
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「人形の村」
白瀬白夜(しらせ・びゃくや)の友人・旗屋千一(はたや・せんいち)は、5年前に経験した事件を語り出す。
オカルト情報誌の編集部で働いていた旗屋のもとに、「私の家には髪の毛が伸びる人形がある」という投書が舞い込む。
投稿者である田島未知子(たじま・みちこ)の家を訪れた旗屋は、人形が置いてある部屋で一晩を過ごすことに。
何事も無く迎えた朝、彼女の両親に未知子のことを訪ねたところ、「娘は一年前に死んだ」という・・・
怪談めいた話から、音野順(おとの・じゅん)は周到な犯罪計画を暴き出す。不可解な事象も、視点を変えてみれば合理的に説明されてしまうという見本のような話。
「天の川の舟乗り」
文庫で約170ページの中編。本書のおよそ半分を占める。
全国でも有数の深さを持つ真宵(まよい)湖は、地元・金延(きんのべ)村の住民からは「迷い湖」と呼ばれている。
そこでは深夜の湖上、水面から数m上空を小舟が "飛んでいた" という目撃談が語られる。それはUFOだったのか・・・?
さらに、その湖には未確認の巨大水棲生物までいるとの噂があり、住民たちはその生き物(UMA)を "マッシー" と名付け、村おこしに利用していた(笑)。
音野順の事務所を訪れたのは松前乙姫(まつまえ・おとひめ)という若い女性。彼女の住む金延村では毎年、金塊祭(きんかいまつり)が行われる。金塊を載せた神輿で村中を練り歩くというものだ。
ところが、今年の祭を前にして予告状が舞い込んできた。
「祭の夜 金塊を頂く 怪盗マゼラン」
しかし祭で使う金塊は、とっくの昔に現金化されて村の振興のために使われてしまっており、いまの "金塊" は、ただの石を金色に塗ったもので全く価値はないのだという。
しかし "金塊" が盗まれて、偽物であると判ってしまうと村の観光に差し支える。そこで、金塊祭保存会長・松前周五郎(しゅうごろう)の娘である乙姫が依頼にやってきたのだ。
白瀬は音野を強引に連れ出して金延村にやってくる。
祭が始まり、神輿は収納庫を兼ねた洞窟を出発、何事も無く村中を回った後に洞窟へ帰還するが、その中では住民が一人、死体となっていた。
洞窟の入り口の扉には錠前が掛かっており、そのカギは、置かれていた松前家から持ち出されていないという・・・
犯人は密室状態の洞窟へ如何にして出入りをしたか。
明らかになるのは大胆極まる物理トリック。文章に書くのは簡単だが、実際に行ってみるとかなり難しいように思う。バカミスネタともいえる。でもまあ、そのあたりを云々するのは野暮というものだろう。
それよりも、犯人の哀しい動機のほうが印象に残る。
「怪人対音野要」
イギリスの古城に招かれてきたのは、世界的な指揮者・音野要(かなめ)。順の兄である。
古城で古い楽器群が発見され、城を所有する富豪ヘンリーから鑑定を頼まれたのだ。
城にいたのは、音楽家のダニエル、ヘンリーの息子ロイ、そして使用人のアダム。しかし要が城に着いた早々、ダニエルが殺害される。
犯人と思われる黒マスクの男は、城の地下へ逃げ込んだ。そこには地下牢があり、さらに外部へ通じる出口もあったが、その先は、折からの豪雨で水量が増した川に面しており、ここから逃げることはできない。
黒マスクの怪人はどこへ消えたのか・・・?
密室状態からの人間消失。こちらも意表を突いた物理トリックが炸裂する。実現可能性はともかく、こんなおバカなトリック(褒めてます)を思いつくセンスを賛美しよう。
「マッシー再び」
「天の川の舟乗り」事件の舞台となった金延村で再び不可解な事件が起こる。
村を観光で訪れていた客が、道ばたで死体となって発見された。
全身を打撲し、直接の死因は頭部への強い衝撃。そして現場近くには、金塊祭で使われる "金塊"(石を金色に塗ったニセモノ)が落ちていた。
被害者と共に村を訪れていた堀川(ほりかわ)という男が第一容疑者となったが、彼は事件の前から右肩を骨折しており、重いものを持ち上げることはできなかった。
さらに遺体の周囲には、バラバラになった神輿、そして大量の砂が散らばっている。まるで "マッシー" が歩いた跡のような。果たして、"マッシー" が "犯人" なのか・・・?
乙姫の依頼で再び村を訪れた音野順が謎を解く。
これもまた奇想天外な物理トリック(というか物理的方法)が披露される。本書の中ではいちばん無理がありそう、というかいちばんバカバカしい(繰り返しますが褒めてます)。
まあそれを言ったら本書に登場するトリックはどれをとっても五十歩百歩だが(おいおい)、ここまでくるともはや様式美の世界か。天晴れである。
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