評価:★★★★
世界的アーティスト・土塔雷蔵とその一家が住む「荒土館」がある一帯を地震が襲う。復讐のために館へ向かっていた一人の男は、館と外部を結ぶ唯一の道路を塞ぐ土砂崩れの前で立往生してしまう。
そのとき、土砂の向こう側から女の声が。それは、"交換殺人" の申し入れだった。かくして、土砂に隔てられた館の内と外とで、二つの殺人計画が進行していく。
そして名探偵・葛城輝義は、この土砂崩れのために友人たちと引き離され、館に入ることができないでいた・・・
『紅蓮館の殺人』『蒼海館の殺人』に続く、シリーズ第三作。
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『紅蓮館-』事件から3年後、語り手の "僕" こと田所信哉(たどころ・しんや)と名探偵・葛城輝義(かつらぎ・てるよし)は20歳の大学生となっていた。
二人の元に手紙が届く。差出人は『紅蓮館-』事件をともに切り抜けた元探偵・飛鳥井光流(あすかい・ひかる)。彼女は "助け" を求めてきたのだ。
世界的アーティスト・土塔雷蔵(どとう・らいぞう)が中国地方の山中に建てた「荒土館(こうどかん)」。そこに彼女は滞在しているのだが、ある理由から、事件の発生を予感していた。
田所と葛城、さらに友人の三谷緑郎(みたに・ろくろう)を加えた三人は「荒土館」を目指すが、その途中で地震に遭遇、発生した土砂崩れによって田所と三谷は館側、葛城は外部側へと分断されてしまう・・・
本書は三部構成になっている。
「第一部 名探偵・葛城輝義の冒険」
小笠原恒治(おがさわら・つねはる)は復讐の念を胸に「荒土館」へ向かっていたが、途中で地震に遭遇、土砂崩れの前で立ち往生してしまう。
そのとき、土砂の向こう側から女の声が。それは、"交換殺人" を申し入れるものだった。
女が土塔雷蔵を殺す、その代わりに小笠原は、〈いおり庵〉と云う旅館の若女将・満島蛍(みつしま・けい)を殺す。
申し出を受け容れた小笠原は〈いおり庵〉にやってくるが、そこには土砂崩れで田所たちとはぐれた葛城が既に投宿していた。
ここから小笠原は満島を殺害する計画に着手するのだが・・・
小笠原vs葛城 の倒叙ミステリ、という趣き。本書は文庫で約600ページあるのだが、この第一部だけで140ページほど。
「第二部 助手・田所信哉の回想」
第一部と並行して、荒土館内部で起こる連続殺人事件が描かれていく。
険しい崖に囲まれた館は、地震によって外部へつながる唯一の道路が断たれ、孤立してしまう。しかも何者かが仕掛けた "妨害装置" によって電波も遮断されたので、電話もネットも通じない。
そして土塔雷蔵、その息子、三人の娘、二人の来客、そして飛鳥井・田所・三谷。合計10人が集った館で、次々と奇怪な殺人事件が起こっていく。
館の中庭にある高さ5mもの像が掲げている剣に突き刺さった死体。人体をそこまで持ち上げることはもちろん、周囲には遺体を投げ下ろせる場所もない。
館の塔の頂にある部屋で見つかった銃撃死体。しかし周囲には狙撃できる地点が存在しない。空中から銃弾が放たれたのか?
そして、誰も出入りできなかったはずの建物の中に、突如として死体が出現する。
まさに不可能犯罪のてんこもり。自分自身も命の危険を感じた田所は、持参したPCで克明に記録を残していくが・・・
地震発生から60時間以上が経過し、やっとのことで救助隊が到着、生存者が救出されるまでが描かれる。この部分が約300ページ。
「第三部 探偵・飛鳥井光流の復活」
ここは文庫で約150ページ。田所の書いた手記と、独自に入手した情報を元に、葛城による謎解きが始まる・・・
ミステリをけっこう読んできた人なら、ストーリーが進んでいくにつれて、なんとなく「この人物が犯人じゃないかなぁ」と思い当たるようになるだろう。往年の某名作を思い出す人もいるかも知れない。
じゃあ凡作かというと全くそんなことはない。論理的にそれを説明するのはかなり難しそうだし(少なくとも私のアタマでは無理)、各不可能犯罪のトリックに至っては皆目見当がつかない(作中ではいくつか仮説が提示されるが、悉く否定されていく)。
そういう意味では「頂上は見えているのに、そこまでの登山道が霧に閉ざされている」ような作品と感じた。
そして、明かされてみるとトリックはかなり大がかりなもので、もちろんこの場所だからこそ可能な犯罪。「館ミステリはこうでなくては!」と思わせる。
読者の思考の盲点を突く部分もあるし、細かいところまで計算された作品だと言えるだろう。
このシリーズは四部作とアナウンスされている。ということは次作が最終巻となる。
葛城と田所はどんな結末を迎えるのか? 三谷と飛鳥井は再登場するのか?
いろいろ興味は沸くが、期待して待ちましょう。
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