居酒屋「一服亭」の四季



居酒屋「一服亭」の四季 (講談社文庫 ひ 58-2)

居酒屋「一服亭」の四季 (講談社文庫 ひ 58-2)



  • 作者: 東川 篤哉

  • 出版社/メーカー: 講談社

  • 発売日: 2024/02/15

  • メディア: 文庫








評価:★★★





 一見すると普通の民家のように見える居酒屋「一服亭」。そこの女将は「二代目、安楽ヨリ子」を名乗る。とてつもない "人見知り" だが、優れた名探偵でもある。彼女の元に持ち込まれる猟奇的な事件は次々に解決されてゆく。

 前作『純喫茶「一服堂」の四季』の続編・・・なのかな?(笑)。

 ユーモア・ミステリ・シリーズ第二弾。



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 古都・鎌倉の住宅街でひっそりと営業している居酒屋「一服亭」。そこの女将・安楽ヨリ子(あんらく・よりこ)さんは、初対面の人とは目も合わせられないくらいの極端な人見知り。

 だがひとたびアルコールが入ると "安楽椅子探偵" に変身する。ついでに性格も一変する(笑)。彼女の元に持ち込まれる猟奇的な怪事件を、日本酒をぐいぐい飲みながら解決していく(おいおい)。





「【第一話】綺麗な脚の女」



 勤めていた会社が倒産してしまった君鳥翔太(きみどり・しょうた)は、母の知人の資産家・磯村光一郎(いそむら・こういちろう)に職の斡旋を頼みに行く。

 箱根山の麓に発つ彼の屋敷を訪ねた翔太は短パン姿の美脚の女性を見かける。彼女の名は杉本里佳子(すぎもと・りかこ)。光一郎がパトロンをしている画家だ。

 その里佳子が、山中にある平屋の一戸建てで殺される。密室のなかでバラバラ死体となっていたのだ。しかも、発見から警察が到着するまでのわずかな時間で、死体は姿を消してしまう・・・

 死体消失のトリックは手が込んでいる。盲点を突く巧妙なものだと思う。





「【第二話】首を切られた男たち」



 イタリア料理店『ナポリ庵』の経理担当だった浅村弘之(あさむら・ひろゆき)は、新社長・辻岡裕次郎(つじおか・ゆうじろう)によってクビになってしまう。腹の虫が治まらない浅村は、金を盗みに深夜の『ナポリ庵』に忍び込む。

 しかしそこで見たのは、事務所の中で対峙する二人の男。社長の辻岡と料理長の清川(きよかわ)だ。そして清川の手には拳銃が。そして響く銃声。肝を潰した浅村は逃げ出してしまう。

 しかし翌朝、出勤してきた従業員が見つけたのは首を切断された辻岡の死体、そして首はいずこかに持ち去られていた・・・

 そんなに都合良く○○や○○○○○が起こるか?って疑問は残るが、それを除けば不可解な状況を説明する理屈づけはよくできてる。





「【第三話】鯨岩の片足死体」



 『大船商事』営業部の課長・三田園(みたぞの)は、5人の部下とともに、三浦半島先端に近い鶴が森にキャンプにやってきた。しかし、メンバーの一人・有原健介(ありはら・けんすけ)が夜釣りに行ったきり、帰ってこない。

 海岸を捜索した一行が見つけたのは、鯨岩(くじらいわ)と呼ばれる岩の上にあった有原の死体。死因は後頭部への打撃だったが、不可解なことに、彼の右足が切断されていたのだった・・・

 人体切断をテーマにしたミステリは多々あるが、こういう理由で切断した作品はなかっただろう。バカバカしいんだが、犯人からすれば切実だったんだろうなとは思うが。





「【第四話】座っていたのは誰?」



 箱根の山奥に建つ山荘旅館にやってきた小説家・東原篤実(ひがしはら・あつみ)。そこで彼女は、君鳥翔太をはじめとする "猟奇殺人仲間" を自称するグループに出会う。これは第一話~第三話の事件で、バラバラ殺人などの猟奇犯罪に出くわした者たちのことだ。

 季節は冬で、山荘は雪に閉ざされている。宿泊した翌朝、旅館の離れから火災を知らせる非常ベルの音が。消火器を持って駆けつけた従業員たちはバラバラ死体を発見する。それは離れの宿泊客・近藤のものだった。

 被害者が朝7時まで生きていたとの目撃証言から、関係者に次々にアリバイが成立してしまい、結局のところ翔太が逮捕されてしまうことに(おいおい)・・・

 この最終話に限らず、本作ではみな、程度の差はあれ遺体が損壊されているのだが、その理由づけが(ミステリとしては)充分になされている。今回の遺体切断にも理由があるし、それを悟られまいとする犯人の工作もよくできてる。



 この作者の持ち味だけど、ユーモア・ミステリの皮を被っていても中身はけっこうガチな本格作品である。





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