double ~彼岸荘の殺人~



double〜彼岸荘の殺人〜 (文春文庫)

double〜彼岸荘の殺人〜 (文春文庫)



  • 作者: 彩坂 美月

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋

  • 発売日: 2024/02/06









評価:★★★





 幼い頃に念動力を発動し、"超能力美少女" と騒がれた紗良。しかしそれ以来、引きこもりとなってしまう。そして21歳となった彼女の元に「幽霊屋敷」の謎を解き明かしてほしいとの依頼が。

 幼馴染みのひなたとともに向かった屋敷には、テレパスやサイコメトリストなど5人の超能力者が集められていた・・・



* * * * * * * * * *



 山本ひなたは6歳の時、神城紗良(かみしろ・さら)が念動力(サイコキネシス)を発動する現場に居合わせる。それをきっかけに "超能力美少女" と騒がれるようになった紗良は引きこもりになってしまう。

 ひなたは紗良を見守り続け、21歳になった今も彼女とはつかず離れずの生活を続けていた。



 そんなとき、紗良に「幽霊屋敷の謎を解き明かしてほしい」との依頼が入る。申し入れてきたのは、大企業キジマ電器創業者の一族にして次期後継者と見なされている貴島蓮(きじま・れん)。



 貴島家が所有する長野県の山荘『彼岸荘(ひがんそう)』。周囲に彼岸花が咲き委乱れることからその名がついたらしい。

 昭和初期に貴島家当主の妾宅として建てられたが、そこでは過去に複数の人間が不審な死を遂げたり行方不明になっているという。



 ひなたが同行することを条件に、紗良は『彼岸荘』にやってきた。そこには彼女たち以外にも、超常の力を持つ者たちが集められていた。



 波多野瑞希(はたの・みずき)はマスコミで活躍するサイコメトリスト。

 植田茂樹(うえだ・しげき)はイベント会社社長で予知能力者。

 上原俊子(うえはら・としこ)は主婦でテレパス(精神感応能力者)。

 早川明(はやかわ・あきら)は自動書記能力者。

 小塚凪(こづか・なぎ)少年の能力は電気を自在に操るエレクトロキネシス。



 そして調査のスタッフとして貴島連、その従兄の水屋和久(みずや・かずひさ)、大学院生の遠藤悠人(えんどう・ゆうと)が加わり、総勢10名。



 しかし "幽霊屋敷" は彼らに対して牙をむく。外部との通信は遮断され、屋敷から外へ出ることもできなくなってしまう。そしてメンバーの中から次々と死者が発生していく・・・





 本作はホラーがベースの物語だと言えるだろう。登場する超能力者たちの力も描かれるがそれがメインではない。まあ、予知能力やテレパスがバッチリ働くようなキャラが出てきたらミステリが成立しないし、サイコメトリーで得られる情報も断片的だ。



 じゃあ超能力者を登場させた意味がないかというとそうではなく、能力を持つが故に事件を引き起こしたり、"屋敷に巣くう悪意" に狙われる、という事態も起こっていく。

 つまり "屋敷" もまた "意識を持った敵" として描かれる。"もう一人の重要人物" と云ってもいい。



 そしてややこしいのは、そんな状態に放り込まれた一団の中にあって、"ある人物" が "ある目的" を持って人を殺していく、という状況が並行して起こっていることだ。



 屋敷に集まられた者たちは、殺人犯をあぶり出し、さらには "屋敷に巣くう悪意" の正体を突き止めて外へ脱出する、この二つのミッションをこなさなればならない。




 ひなたと紗良の主役コンビについてもドラマがある。幼少時から辛い境遇にあった紗良、それを見守ってきたひなた。しかし二十歳を超えた今も互いに離れられずにいる様子に、共依存の関係を見いだす読者は多いだろう。

 しかしこの事件をきっかけに、二人の関係にも変化が生じていく。彼女たちの精神的な成長も本書の読みどころだと思う。



 ホラーで凄惨な物語なのだが、読後感がいいのは作者の持ち味だろう。ラストシーンはちょっと綺麗過ぎかなとも思うが、この物語のエンディングとしてはこれくらいでちょうどいいのだろう。





この記事へのコメント