大河ファンタジー・〈八咫烏〉シリーズ、第二部第二巻。
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人間と大烏の間を相互に変身できる「八咫烏(やたがらす)」の一族が支配する「山内(やまうち)」の地を舞台にした大河ファンタジー・シリーズ。
長編6巻からなる第一部の終盤では、猿の一族との大戦が描かれた。勝利は収めたものの、猿の陰謀によって、遠からぬ未来に「山内」の地に "破滅" が訪れることが判明する。
第二部の第一巻(前巻「楽園の烏」)では、大戦から20年後の山内について語られたのだが、第一部のラストとはかなり様相が違ってしまっていて、「いったい20年の間に何が起こったんだ?」と、読者の誰もが感じたはず。
その疑問を解き明かすのが本巻。時間軸を第一部終結直後に巻き戻し、改めて物語がスタートする。前巻で感じた疑問の答えも、すべてではないが知ることができる。
とはいっても、今まで長いこと続いてきていて、この後も何巻も続く(であろう)シリーズなので、何を書いてもネタバレになってしまいそう。なので、ほんのさわりだけ紹介する。
猿との大戦終了後、日嗣の御子(ひつぎのみこ:皇太子)だった奈月彦(なづきひこ)は正式に金烏(きんう:山内を統べる者)として即位し、来るべき "破滅" に対する準備のために、東西南北の大貴族四家に対して負担を増やすよう求める。
皇妃との間に長女・紫苑の宮(しおんのみや)を儲けたものの、第二子の懐妊の様子は一向に見られず、奈月彦は紫苑の宮を跡継ぎとすべく根回しを始める。過去に女性が金烏となった例はないためだ。
奈月彦の側近で、猿との大戦では全軍の指揮を執った雪哉(ゆきや)は、"破滅" に際して最悪の場合には外界(人間の世界)への避難も考えていた。そのため、雪哉自身も外界へ長期の "留学" へ出ることに。しかし人間の世界で暮らす雪哉のもとへ、驚きべき知らせがもたらされる・・・
本書の前半で印象に残るのは、雪哉と紫苑の宮の交流だ。信頼と愛情でつながった二人のほんわかした様子に癒やされる・・・と思ったら後半は怒濤の展開で「このときの二人が一番幸せだったんじゃないか」(おいおい)って思ってしまう。
そして今回いちばん感じたのは、作者の構想力。後半のストーリーとそれに関わるキャラを見ていたら、この展開は第一部のかなり早い段階から考えられていたことが分かる。もしシリーズ執筆開始以前から予定していたとしたら、スゴいを通り越してもう脱帽だ。
第一部の一巻と二巻で、同時期の話を視点を変えて描いていたり、第二部の一巻目でいきなり20年も跳んで二巻目で戻るなど、読者の興味を巧みに繋ぐ仕掛けも堂に入ったもの。考えてみれば、もうデビューして12年目。中堅を超えてベテランの風格すら感じる。
ほぼ年の1冊の刊行だけど、続きがとても楽しみなシリーズ。しっかり次巻を待ちます。
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