評価:★★★
時は明治、米国帰りの青年・入江明彦は横濱に事務所を構えた。
助手の文弥と謎の美青年・ミツとともにいくつかの事件を解決していくうち、『灯台』と呼ばれる犯罪組織の存在を知る。
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舞台は横浜(作中の表記では "横濱")。具体的な年代は明記されていないんだが、明治末期(40年頃)の時代設定と思われる。
主人公・入江明彦(いりえ・あきひこ)は米国留学帰り。経営学を修めてくるはずがなぜか探偵事務所を開いてしまう。
明彦は、江戸幕府の御庭番(将軍直属の情報機関)を務めた家で育った。本書のタイトルはそこから来ている。
少年・文弥(ふみや)を助手に探偵業を始めた明彦が、謎の美青年・ミツとともに犯罪組織『灯台』が引き起こす事件に挑んでいく。
「第一話 不老不死の霊薬」
本橋主税(もとはし・ちから)は明彦の義理の叔父。横濱税関長という要職にあり、秋彦の後ろ盾とも云える人物だ。その彼が持ち込んできたのは、最近横濱で "不老不死の霊薬" なるものが出回っているという噂。そしてその売上金が横濱を牛耳る犯罪組織『灯台』に流れ込んでいるらしい。
30年ぶりに来日した英国人元医師ウィリアムは、横濱で理容館を経営している白木すみという女性に逢い、驚く。
彼が30年前に治療した石田マツ(当時15歳)という女性にそっくりだったのだ。マツは直後に亡くなったが、彼女の母はこう語ったという。「娘には不老不死の薬を渡してあるので、やがて生き返る」と。
白木すみもまた、外見は女学生に見えるほど若い。ウィリアムは「マツがすみと名を変えている」と言い張るのだが・・・
本書はホラーではなくミステリなので、そこには何らかのカラクリがある。それを明彦が鮮やかに解き明かす、”つかみはバッチリ” の話。同時に、明彦がミツという謎の青年と出会い、関わっていくことになるエピソードでもある。
「第二話 皇太子の切手」
貿易商を営んでいたジョーンズ夫妻は、引退して横濱に居住している。フランスに住む友人が亡くなり、形見として手紙を譲り受けたが、その封筒に貼られていた切手が「ブルー・モーリシャス」と呼ばれる、当時では世界一高価な切手であったことが判明する。
そして夫妻がホテルで開かれた仮装パーティに出席中、山の手にある家が火災に遭ってしまい、切手も一緒に燃えてしまう。
夫妻が「ブルー・モーリシャス」を持っていることを知った男から脅迫を受けていたことが判明するが・・・
明彦の推理で事件の様相がガラッと変わるのが鮮やか。
私も子どもの頃のほんの一時期だが、切手蒐集をしてたことがある。そんなことを思い出しながら読んだ。
「第三話 港の青年」
伊勢佐木町にある芝居小屋・常磐座。そこにかかっている芝居『港の青年』が大評判になっていた。佐助という若い男が横濱にやってきて、様々な苦難を乗り越えて働き続けていくという話だが、それが女性たちから人気を呼んでいたのだ。
そんなところへひとりの女性が現れる。名はキヨで20歳。2年前にたったひとりの兄が上京したが、その後音信不通になった。兄を探しに横濱にやってきて、そこで『港の青年』を観たキヨは驚愕する。そこに登場する佐助こそ、兄・佐吉のことではないのか・・・
読んでいて、一連の話には何か裏があるらしいのは分かるのだが、わかってみるとちょっと遠回り過ぎな気も。
「第四話 My Heart Will Go On」
洗濯物の袋を抱えていた文弥がホテルの階段を踏み外し、足を骨折するという事件が起こる。さらに税関職員が起こした不祥事が新聞に載り、税関長・本橋は苦境に立たされる。
明彦の相棒となるミツは、犯罪組織『灯台』と関わりのある身。だが明彦と協力して『灯台』の野望を挫いてきた。それが第一話~第三話だ。
『灯台』は明彦を邪魔者と見なし、第三話では直接狙ってきたが失敗し、第四話では搦め手から攻めてくる。それを逆手にとり、ついに組織の首領の正体を明らかにするまでが描かれる。
明彦とミツの関係は必ずしも良好ではないのだが、物語が進むにつれて次第に信頼関係が生まれ、それが友情へと育っていく。
その気になれば続きが書ける終わり方なのだけど、本書は5年前の刊行以来、続巻が出てない。
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