評価:★★★
伊豆半島沖の島で発生したウイルス感染。罹患して死亡した者は、他者の血肉を求める「バイター」として甦る。そして襲われた者もまた「バイター」へと化していく。かくして、あっという間に島は「バイター」の巣窟へ。
政府は直ちに島を封鎖するが、総理大臣の娘・相澤彩香が部活動の合宿で島を訪れていたことが判明する。
総理勅命によって自衛隊と警視庁による7人の特殊部隊「ブラッド・セブン」が結成され、彩香を救出すべく島に向かうのだが・・・
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タイトルの「バイター(biter)」は、英語の「噛む(bite)」から来ているのだが、一言で云えば、いわゆる "ゾンビ"(甦った死者) のことだ。
伊豆半島沖25kmの海上に浮かぶ大川豆島(おおかわずしま)。島の火山・仙石岳の調査のために訪れた科学者チームが、噴火口付近でミイラ化した動物の死体を発見する。
しかしそのミイラに接触したメンバーが高熱を発して死亡する。それがすべての始まりだった。
ミイラの中に潜んでいたウイルスに感染した者はいったん死亡し、その後蘇生する。しかしそれはすでに人間ではない。他者の血肉を求め襲う "怪物" として甦るのだ。そして襲われた者もまた同様の "怪物" へと化していく。
ウイルス感染からバイター化までの時間は数時間~20時間ほどと極めて短い。ゆえにバイターは指数関数的に増大していってしまうことになる。
異変を知った政府は直ちに海上自衛隊及び海上保安庁の艦船を動員、島を完全封鎖する。さらに "怪物" の呼称を「バイター」とすることを決定する。
バイターウイルスはその構造から、狂犬病ウイルスと他のウイルスが結合したものと思われた。
狂犬病ワクチン(作中では「ラザロワクチン」と呼ばれる)を感染者に投与したところ、一割はショック死、六割は人間としての意識を保つことができたが、それでも三割の者はバイター化してしまうことが判明する。
その中で、総理大臣・相澤統一郎(あいざわ・とういちろう)の娘・彩香(あやか)が美術部の合宿で大川豆島に滞在していることが判明する。
彩香は自修館(じしゅうかん)中学校の二年生で14歳。同行者は顧問の女性教師1名、部員の保護者(母親)1名、部員5名。
妻を喪い、一人娘の彩香を溺愛する相澤は彼女の救出を行うことを決意、特命チームを島に派遣することに。しかしこれが公になれば批判は免れない。よってこれは極秘作戦となった。
主人公・藤河徹(ふじかわ・とおる)は35歳。警視庁警備部のSAT(特殊部隊)所属の巡査部長だ。チームのサブリーダーを務める。
浜井裕子(はまい・ゆうこ)は警視庁SP(セキュリティ・ポリス)で巡査長・29歳。4年前の冬季オリンピックでクロスカントリー日本代表に選ばれた。相澤総理の警備も担当したことがあり、彩香の顔も知っている。
掛川睦雄(かけがわ・むつお)は捜査一課の巡査。医師免許をもつという変わり種の刑事だ。
陸上自衛隊からは梶原達也(かじわら・たつや)二尉。藤河と同じ35歳でチームのリーダーを務める。狙撃能力の高さでは他の追随を許さない。
他に狙撃手2名(うち一人は女性)、通信担当1名と合計4名。
合わせて7名が特殊部隊「ブラッド・セブン」のメンバーだ。
大川豆島でバイターウイルス感染が始まった頃、彩香を含む美術部の一行は島の観光名所である八幡山(やわたやま)展望台で写生を行っていた。
しかし台風の接近で天気が崩れ、下山することに。しかしいくら待ってもバスが来ない。やむを得ず徒歩で下山を始めるのだが、そこでバイターに襲われて逃げ回ることになる。
一方、ヘリコプターで島に降り立ったブラッド・セブンも彩香たちの足取りを追って探索を開始、その過程で島にいた人間のほぼ全員がバイター化してしまっていることを知る。
バイターは人間としての意思がないのはもちろんだが、痛覚もないらしく手足を失っても、あるいは胴体が半分に切断されても活動を止めない。とどめを刺すには頭部(脳)を破壊すること。どうやら筋肉を動かす部位のみが "生きて" いるらしいのだ。
迫り来るバイターの群れをマシンガンで掃討していく様子は、さながら映画『エイリアン2』のようだ。作戦開始時には一人当たり7000発という弾丸があったのだが、みるみるうちに消費されていく。
精鋭揃いのブラッド・セブンだが、藤河と梶原はしばしば意見が対立する。彩香救出という同じ目的を抱きながら、梶原は次第にバイターの "殲滅" にのめり込んでいく。
本書のヒロインともいうべき彩香さんは、美少女なのは "お約束" だが(笑)、それだけではない。気丈な性格に加え判断も的確、なかなか賢いお嬢さんとして設定されている。
ただまあ中学生の集団であるから、なかなか一糸乱れぬ行動とはいかない。真っ先に保護者である大人たちを喪った後は、じわじわとメンバーが減っていく。
その中で最後まで希望を失わない彩香さんに、読者はいやでも感情移入してしまうだろう。
島の中でのドラマが進行している裏で、本土でもバイターウイルスは広まり始める。封鎖される前に島を出た観光客の中にも感染者がいたためだ。東京をはじめ、各地でバイターが出現していき、政府はそちらへの対応も迫られることに。
そして本作中、"ヴィジットルーム" という施設が登場する。ここがどんな場所なのかはネタバレになるので書かない。このあたりは読んでいただくしかない。
本作のエンディングは、"正統的ホラー" としてはこの終わり方がふさわしいのかも知れない。でも、私の好みではないなあ。やっぱり私はホラーは苦手のようです。
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