評価:★★★☆
地球圏へ頻繁に流星群が飛来するようになった時代。
宇宙空間で流星を破壊する任務にあたる "子どもたち" がいた。巨大なエネルギー砲に連動した人造眼球を持ち、流星を狙い撃ちする〈スナイパー〉だ。
そのひとりである霧原は、厚い信頼で結ばれた整備士の神条とともに任務に当たっていたが、ある日、神条の妻と名乗るハヤトが現れる。
そして、地球圏には空前の規模の流星群が迫りつつあった・・・
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ある日、ひとつの隕石が地球に落下、巨大な被害をもたらした。それ以後、しばしば地球圏に流星群が飛来するようになった。
地球と月の間に建造された、宇宙空間における農耕研究施設・"軌道庭園" が迎撃施設として転用され、そこにはエネルギー兵器〈トニトゥルス〉とそれを操作する〈スナイパー〉たちが配置され、地表へ落下する前に流星を破壊する任にあたっていた。
読んでいてまず気になるのは〈スナイパー〉とはいかなるものか?という謎だ。
作中には "造られた子どもたち" という表現がある。主人公の霧原(きりはら)は17歳の "女の子" なのだが、エネルギー砲と連動した人工眼球を埋め込まれているなど、流星迎撃に特化した "改造" を施されている(文庫の表紙が彼女)。
しかも、自分の置かれた境遇に疑問を持たず、「死ぬ瞬間まで、星を撃っていたい」と願うほど、教育された、というよりマインドコントロールされた存在だ。しかも〈スナイパー〉は人工眼球による過度の負担によって20代前半で寿命を迎える(脳が耐えられないため)。
なんだかどこぞのロボットアニメに似たような設定があったような気もするが、とにかく過酷な運命の下にあることは間違いない。
そしてなにより、こういう "処置" をされている段階で、〈スナイパー〉たちに人権は与えられていないことが分かる。要するに一般人からは "人間扱い" されていないわけだ。
〈スナイパー〉は "兵器" であるから、メンテナンスが必要だ。霧原の担当整備士は神条(かみじょう)シヅカ。20代後半と思われる男性だ。
二人がいる軌道庭園へある日、神条の元妻を名乗るハヤトという女性が現れる。彼女は人工眼球の研究者で、"ある目的" をもって霧原に逢いに来たらしい。
霧原は神条に対して深い信頼の念を抱いているが、ハヤトの登場によって、彼に心惹かれていたことを自覚していく。
物語が進行していくに従って、神条の過去、彼がハヤトと結婚し別れるまでの経緯などが明らかになりつつ、中盤過ぎでは地球圏を襲う大量の流星群を総力を挙げて迎撃する〈スナイパー〉たちの戦いが描かれる。
終盤では霧原に待ちうける "過酷な未来" が明らかになる。神条は彼女を救うべく行動を起こすのだが・・・
本書をひと言で言えば、兵器として生まれた少女が、"愛" を覚えて人間になっていく物語、となるだろう。しかしそれは今までの自分を否定することにもなり、彼女はその葛藤に苦しむことになる。
感情を表すことが不得手な霧原に、しっかり感情移入してしまった。すんなりと進まない二人の仲にも一喜一憂しながら読んだ。
ラストについては好みは分かれるかな。SFとしてはこういう終わり方もアリだとは思うし、20代の頃の私だったら素直に感動していたかも知れない。
でもねぇ・・・トシをとった私には、このエンディングはちょっとなぁ。
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