評価:★★★☆
紙鑑定士・渡部圭(わたべ・けい)が遭遇する事件を描いたミステリ・シリーズ、第二巻。
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「FILE:01 猫と子供の円舞曲」
渡部の事務所に現れたのは小学三年生の古戸梨花(ふると・りか)。彼女が持ち込んできたのは ”固まった紙粘土” のような物体。
彼女は新宿で野良猫が怪我をしているのを見つけ、その現場にこの ”紙粘土” が落ちていたのだという。猫の血と毛がついていたので、これが凶器に間違いない。彼女はクラスメイトが犯人ではないかと心配していた。
しかし、渡部の見るところ、学校で使われる紙粘土とは成分が異なるようだ。彼は前作で知りあったプラモデル作家・土生井昇(はぶい・のぼる)のもとへそれを持ち込んだところ、フィギュアの造形に用いる「石粉粘土」と云うものだと判明する。
土生井の伝手で、フィギュア作家・團文禰(だん・ふみね)の協力を得た渡部は、調査を進めるうちに猫襲撃の裏に意外な犯罪が潜んでいたことを知る・・・
9歳ながら、渡部の言動にしっかりツッコみを入れてくる、おしゃまな梨花さんがかわいい。
「FILE:02 誰が為の英雄」
渡部は猫襲撃事件の報告のために團の家を訪れた。彼はアメコミ・ヒーローを題材にしたオーダーメイドの一品ものフィギュアを完成させたところだった。これから納品に行くというので、渡部の車で送ることに。
依頼主は伴地有美(ばんち・ゆみ)という女性。白バイ警官だった夫が2年前に殉職、当時10歳だった息子・翔(しょう)はそれ以来引きこもりになってしまっていた。
有美自身も元警察官で、若い頃は「美人すぎる婦人警官」としてたびたびマスコミに登場する有名人で、渡部もファンだった(笑)。
フィギュアの依頼人は翔だったが、なぜか出来上がりに満足せず、その理由も云わない。そして部屋の中で暴れては、何度も作り直しをさせていた。そんな理解不能な息子の行動に、有美は疲れ果てていた。
渡部は有美のために、翔の行動の理由を突き止めとようとするのだが・・・
終盤、渡部はかつて自分が体験したことを交えて、翔と二人だけで語り合う。その姿はなかなかカッコいい。
「FILE:03 偽りの刃の断罪」
渡部の事務所に現れたのは、前作で知りあった神奈川県警の刑事・石橋。彼は紙の鑑定を依頼しにきたのだった。
それは春見真久(はるみ・まさひさ)という男性から菱谷貴里(ひしや・きり)という女性へ充てたもので、内容は結婚の申し込みだった。
しかし貴里は真久を振り、張本善浩(はりもと・よしひろ)という男と結婚した。しかし貴里の留守中に善浩が刺殺され、家が放火されるという事件が起こっていた。
捜査陣の見立てでは真久が限りなくクロ。しかし彼を十代の頃から知る石橋にはそれが信じられない。そこで渡部の力を借りにきたのだ。
なぜかというと、この事件の関係者三人には、コスプレという共通の趣味があったから(笑)。石橋は「こういうオタク系の事件に渡部は強い」と思っているらしい(結果として間違ってはいないのだが)。
かくして、またまた團の協力を得た渡部だったが、やがて事件の裏に潜むディープな事情が明らかになっていく・・・
前作の土生井に代わり、今回はフィギュア作家の團が大活躍。フィギュアはもちろんアメコミ、コスプレ系の膨大な知識で渡部の調査を大いに助けていく。
渡部自身の紙や印刷に関する蘊蓄も健在で、「FILE:02」の真相解明も彼の知識があればこそ。
そして、今回の三短編に共通するテーマは「○○」らしい。渡部は、元恋人だった真理子との関係が変わっていきそうな予感を覚えつつ、次巻へ。
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