機巧のイヴ 新世界覚醒篇



機巧のイヴ―新世界覚醒篇―(新潮文庫)

機巧のイヴ―新世界覚醒篇―(新潮文庫)



  • 作者: 乾緑郎

  • 出版社/メーカー: 新潮社

  • 発売日: 2018/11/30









評価:★★★





 人間そっくりの機巧人形(オートマタ)・伊武(イヴ)を巡る物語、第2巻。

 1892年、万国博覧会開催が迫る新大陸の都市ゴダム。会場ではパビリオン建設が進んでいる。万博の利権を巡り、人間たちの権謀が渦巻く。

 そんな中、日下國のパビリオンに眠っていた伊武が覚醒する。



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 ”こちらの世界” でいうところの幕末期の江戸(作中では ”天府”)を舞台にした前作からおよそ100年後の1892年。

 場所は世界コロンビア博覧会(いわゆる万国博)の開催が一年後に迫った新大陸の都市・ゴダム(モデルはアメリカのシカゴ)。



 伊武は日下(くさか:日本)国を離れ、博覧会会場に建設中の日下國パビリオン「十三階」(前作に登場した建物を移築したもの)の最上階で眠って(機能停止して)いた。



 ゴダムには、万国博覧会を巡って様々な思惑や目的を持った人間が集まってくる。



 日向丈一郎(にゅうが・じょういちろう)は、日下に残した妻子のために、ある仕事を請け負う。「十三階」から伊武と、機巧人形が詳しく図解されている文書を盗み出すことだ。



 八十吉(やそきち)は15歳ほどの少年で、パビリオン建築現場で見習いをしている。「十三階」の中で伊武を目撃した八十吉は、その美しさに "一目惚れ" してしまい、それ以後は毎晩、真夜中になると最上階まで忍んでいき、ひたすら伊武を眺める日々を送っていた。



 ある夜、八十吉はいつも通り最上階で伊武を眺めていたが、そこには日向も忍び込んでいた。その時、伊武は突如として目を覚まし、活動を再開する。



 そしてもう一人の重要キャラがマルグリッド・フェル女史。

 新大陸では、商業電力の送電方式で争いが起こっていた。交流送電を推し進めるテクノロジック社と、直流送電を主張するフェル電器産業がしのぎを削っている、そのフェル電器の社主がマルグリッドだ。まだ20代の若さでありながら大企業を率いる身。

 彼女も万博会場の送電方式をフェル電器で握るため、ゴダムへとやってきた。



 ほぼ主役的立ち位置にいるのは日向だろう。新大陸に渡る前は、軍事探偵として大陸の華丹国(モデルは中国か)に潜入していた。このときの彼の行動は作中で明かされていくが、時には非道な振る舞いも行っていて、それがトラウマとなっている。

 伊武と出会うことによって、彼もまた予想外の道へと進んでいくことになる。





 本作では連作短編集から長編へと形式も変わったが、いちばんの変化はコメディ要素の増加だろう。

 前作では神秘的な雰囲気を纏っていた伊武さんなのだが、今作ではトボけた言動をみせるようになる。もともとこういう性格(?)だったのか、それとも100年にわたる機能停止のせいなのかは分からないが、読んでいてこちらの方が断然楽しく、彼女への感情移入度も増していく。



 マルグリッドは、眼鏡なしでは目の前にいる人の顔すら判別できない極度の近眼という設定で、彼女が出てくるシーンでは、毎回見当違いの相手に話しかけるのが "お約束のギャグ" になっている。

 幼少時から天才的なエンジニアの才能を開花させていたマルグリッドだが、伊武の存在を知ってからは「機巧人形」という、ある種のオーバーテクノロジーにのめり込んでいくことになる。



 万博都市・ゴダムを舞台に機巧人形・伊武の争奪戦が展開され、目覚めた伊武に関わった人々の運命が変転していく様が描かれていく。





 ちょっと先走るが、続巻の『機巧のイヴ 帝都浪漫篇』では本作の25年後が描かれる。八十吉、マルグリッド、そして日向の妻と息子も重要キャラとして登場し、日下と大陸を舞台に新たな物語が綴られる。

 こちらも読了しているので、近々記事に書く予定。





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