あと十五秒で死ぬ



あと十五秒で死ぬ (創元推理文庫)

あと十五秒で死ぬ (創元推理文庫)



  • 作者: 榊林 銘

  • 出版社/メーカー: 東京創元社

  • 発売日: 2023/08/31









評価:★★★★





 死の間際、死神から与えられた "十五秒" で、自分を撃った犯人を告発しようと反撃を試みる被害者だが・・・。

 第12回ミステリーズ!新人賞佳作受賞の表題作を含み、全編が「十五秒」をテーマに描かれたミステリ4編を収録した作品集。



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「十五秒」

 主人公は診療所で働く女性薬剤師。ある日、彼女が職場で後ろから銃で撃たれてしまうところから始まる。撃たれた瞬間、時間がストップし、目の前に "猫" が出現する。猫は自らを死神と名乗り、いまは死の間際、いわゆる "走馬灯タイム" なのだという。その時間は15秒間。彼女は残された時間を使って、自分を撃った犯人を告発しようと反撃を試みるのだが・・・

 この走馬灯タイム、彼女自身の意思で "一時停止" ができるので、彼女は少しずつ残り時間を使いながら、犯人の顔を確認し、さらに犯人の名を現場に残す(いわゆるダイイングメッセージ)ことを考える。

 本作で面白いのは、犯人の側と交互に描かれること。つまり、被害者が最後にとった行動に対して犯人もまた頭を巡らせてその意図を読み取り、妨害しようとする。被害者の方もそれを予想しながら "最後の抵抗" を試みるわけで、わずか15秒間の出来事を巡って双方の知恵比べが描かれていくことだ。

 発想もユニークだし、途中経過もスリリング、そして最後の意外なオチと、ダテに新人賞を取ったのではないと思わせる傑作だ。





「このあと衝撃の結末が」

 "俺" は、連続ドラマ『クイズ時空探偵』の最終回を姉と一緒に見ていたが、ラスト直前の15秒間だけ中座して戻ってきたら、なんと主要人物が何の前触れもなく死亡していた。

 "俺" は姉から過去回のVTRを見せてもらいながら、空白の15秒間に何が起こったのかを推理していくのだが・・・

 この作中作となっているドラマなのだが、タイトル通りタイムトラベルがらみの特殊設定ミステリになっており、これがまた一筋縄ではいかない。

 最後にはもちろんドラマの真相も判明するのだが、それに加えて、もう一段、本作全体に関するオチが待っている。よくできてるのだがちょっと込み入っていて、落ち着いて読まないとワケがわからなくなりそう(おいおい)。





「不眠症」

 主人公は桑折茉莉(こおり・まつり)という少女。葉(よう)という名の「母様」と二人暮らし。茉莉は頻繁に悪夢を見る。車の助手席で目覚めて、葉が何か語りかけてくる。そしてその直後、二人の乗った車に大型トラックが突っ込んでくる・・・というもの。

 葉が伝えたいことは何か? そしてこの状況は何を意味しているのか?

 悪夢は繰り返すたびに微妙に内容が異なり、次第に背景が明らかになってくるのだが・・・

 ミステリと云うよりは幻想的な雰囲気の強いお話。ホラーと云うほど恐ろしくはないが不気味さは満点。





「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」

 文庫で130ページほどで、本書でいちばん長い中編。そのぶん、異様さもピカイチ(笑)。

 日本海に浮かぶ孤島・赤兎島(せきとじま)に住む人々は特殊体質を持っている。まず、首が取れやすい(おいおい)。時には、ちょっと転んだだけで取れてしまう(えーっ)。でも大丈夫、首が取れても15秒間なら死なないのだ(なんと!)。

 取れた首は、15秒以内なら元の身体につなげればちゃんとくっつき、生き続けられる。それどころか、他人の身体につけてもOKというとんでもなさ。ただしこれには条件があって、同じ年齢の人間(誕生日の間隔が1年以内の者)に限り、交換可能なのだ。

 さて、この島で行われる祭りの夜、首のない焼死体が発見される。そして、高校一年生の男子3人の所在が不明になっていることが明らかになる。

 実は死体はこの高校一年生のうちのひとり。しかし彼は死んでいなかった! 同級生との間で、15秒以内に首を交換しながら(つまり2つの首でひとつの身体を共有して)生きていたのだ! そして残るひとりも加わって、3人(首3つ+身体2つ)による犯人捜しが始まる・・・というトンデモナイ話。

 事件は異様だが、ミステリとしてはちゃんと論理的に解決される。しかし、ラストに最大の驚きが待っている。事件によって起こった混乱が収拾されていくのだが、これがスゴい。常軌を逸した無茶苦茶な方法で一連の事態がきっちり収まってしまう。読んでいて思わず「えええええ」って叫んでしまいそうになった(叫ばなかったけど)。本作の特殊設定を十二分に活かしたものではあるのだが、いやあこれはスゴい。スゴすぎる。





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