評価:★★★★
首都・天府に開かれた幕府から国を支配する将軍家、女系で継承される天帝家。そんなパラレルワールドの日本(と思われる国)で、美しき女の姿をした機巧人形(オートマタ)・〈伊武〉(イヴ)が誕生していた。
〈伊武〉を巡る5つの物語を綴る連作短編集。
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時代設定はこちらの世界の幕末頃かと思われる。科学技術のレベルも概ねそれくらい。そんな世界に於いて人間型ロボットである〈伊武〉は超科学的存在。
物語は〈伊武〉が絡む物語から、やがて "彼女" の誕生の秘密へと迫っていく。
「機巧のイヴ」
牛山藩の武士・江川仁左衛門(えがわ・にざえもん)は、闘蟋(とうしつ)会のあと、幕府精錬方手伝・釘宮久蔵(くぎみや・きゅうぞう)のもとを訪れる。江川は闘蟋会の報償として得た品と引き換えに、釘宮にある仕事を依頼する。それは、十三層(天府にそびえる高層建築。内部は遊郭)にいる遊女・羽鳥(はとり)とそっくりの機巧人形(オートマタ)を造ることだった・・・
ちなみに「闘蟋」とは、コオロギを闘わせて勝敗を決めるもので、8世紀の中国が発祥の昆虫相撲の一種らしい。
釘宮は機巧人形師としてはこの世界でNo.1の地位にある男で、この連作集にもレギュラーとして登場する。
シリーズ劈頭を飾る本作は、SFであると同時によくできた本格ミステリでもある。けっこう昔の某有名SFマンガにも似たようなオチのものがあったが、テーマもシチュエーションも異なるので問題なし。
「箱の中のヘラクレス」
湯屋(銭湯)で働く天徳鯨右衛門(てんとく・げいえもん)は18歳。恵まれた体格を活かして相撲で活躍をし始める。しかし八百長相撲に誘われ、それを拒否したために騒動に巻き込まれてしまう・・・
「神代のテセウス」
公儀隠密・田坂甚内(たさか・じんない)は、幕府精錬方を探るよう命じられる。どうやら釘宮久蔵のもとへ、謎の大金が流れているらしい。
やがて甚内は機巧人形(オートマタ)製造技術の出所、さらには天帝家の秘密に触れることになる・・・
「制外のジェペット」
京の御所に暮らす今上帝は生来の虚弱で、世継ぎを産むことが期待できなかった。彼女の兄である比留比古(ひるひこ)親王と妃の間に女児が生まれたことをきっかけに(天帝家は女系で継がれていくことになっており、男子には帝位継承権がない)、幕府は譲位を迫っていたが、それは天帝家の勢力を削ぎ、支配下に置こうとするものだった。
公儀隠密・田坂甚内はある密命を受け、今上帝に仕える娘・春日を御所から連れ出そうとするが・・・
「終天のプシュケー」
天帝崩御から10年。数十年ぶりに開かれた天帝陵の中から、鉄製の厨子が見つかる。そこには『神代の神器』(かみよのじんき)が収められているという。そしてそれは、〈伊武〉などの機巧人形(オートマタ)製造技術の源でもあるはずだった。
その厨子の中身と対面した釘宮久蔵は驚愕する。それは〈伊武〉そっくりの機巧人形(オートマタ)だったのだ・・・
イヴはロボットであるはずなのだが、外見も言動も人間そのもの。見分けることはほとんど不可能なほど "完璧な人間" となっている。そしてそれが(こちらの世界では)19世紀頃の技術で造られているという。
本書の初刊は2014年で、AI(人工知能)という言葉がこんなにメジャーになるとは想像もできない時代だったが、今になってみれば、人間と見分けのつかないような受け答えをするAIも絵空事ではない時代になってしまった。
さて、本書の中に登場するオーバーテクノロジーにはどんな設定が隠されているのか、なかなか楽しみになってきた。
上にも書いた機巧人形製造の秘密など、謎の一部を持ち越して本書は終わるが、その後『機巧のイヴ 新世界覚醒編』『機巧のイヴ 帝都浪漫編』と続編が出ていて、とりあえず3巻で完結しているらしい。
どちらも手元にあるので、近いうちに読む予定。
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