幽霊屋敷



幽霊屋敷【新訳版】 (創元推理文庫)

幽霊屋敷【新訳版】 (創元推理文庫)



  • 出版社/メーカー: 東京創元社

  • 発売日: 2023/04/28

  • メディア: 文庫








評価:★★★★





 かつて執事が奇怪な死を遂げた "幽霊屋敷" を買い取った実業家が、友人知人6名を招いて "幽霊パーティー" を開く。

 初日の夜にはさっそく不審な出来事が起こる。無人の部屋で大きな物音が響いたのだ。そして翌朝には銃殺事件が発生する。目撃者の証言によると、壁に飾ってあった銃が勝手にジャンプして、空中で発砲したのだというのだが・・・





 幽霊が出るという噂のあるロングウッド・ハウスは、17年前に老執事が奇怪な死を遂げたという曰く付きの物件だった。実業家マーティン・クラークは、その屋敷を購入し、友人知人を集めた幽霊パーティを開催する。



 集まったのはジャーナリストのボブ・モリスン。その婚約者でドレスのバイヤーのテス・フレイザー、建築家のアンディ・ハンター、食品卸業のベントリー・ローガンとその妻グウィネス、弁護士のジュリアン・エンダビー。



 一行が到着したときから、小さいながらも不可解な出来事が起こり、夜中には誰もいないはずの書斎から大きな物音が聞こえてくる。



 さらにその翌朝、書斎にいたローガンが銃で殺害されてしまう。そのとき同室していたグウィネスは「壁に掛かっていた銃が、そこから勝手にジャンプして夫を撃った」と証言するのだが・・・





 妻の証言が真実なら、信じられないことが起こったことになる。カーお得意の "不可能犯罪もの" だ。



 トリック自体は単純で、現代だったら "バカミス" に分類されるかも知れない。犯人の狙い通りに実行できるかも疑問だろう。でもまあ、絶対に不可能とも言い切れないので、そのあたりは目をつぶろう(笑)。



 トリックにリアリティが乏しいことはカー本人もよく承知しているみたいで、それ以外の部分にも力を注いでいる。詳しく書くとネタバレになるのだけど、全編にわたって、カーのストーリーテラーとして本領が十分に発揮されていて、それはトリックが判明した後になって更に際立つ。



 単純であるが故に簡単に発動できるトリックなので、それを充分に活かしたシチュエーションが描かれる。それによって真相が二転三転する状況が生まれる。仕込まれた伏線がしっかり回収されていき、小さめながらスペクタクルな展開を挟み、皮肉が効いたラストまでもっていく。



 トリック自体は現代の目で見たら噴飯物かもしれないが、それを種として、そこから根や茎や葉を生じさせ、花へもっていくテクニックはやはりたいしたもの。



 「細かいことはいいんだよ!」っていうおおらかな気持ちで臨めば(笑)、楽しい読書の時間を過ごせるだろう。





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