毒入りコーヒー事件



毒入りコーヒー事件 (宝島社文庫)

毒入りコーヒー事件 (宝島社文庫)



  • 作者: 朝永理人

  • 出版社/メーカー: 宝島社

  • 発売日: 2023/08/04









評価:★★★★





 文具メーカー社長の箕輪征市(みのわ・せいいち)は、妻子と共に山間の千殻(ちがら)村へ移住した。しかし12年前、長男の要(かなめ)が謎の服毒死を遂げてしまう。

 そして12年後、十三回忌のために家族が集まるが、その夜に嵐が襲来して村は孤立してしまう。そして今度は当主の征市が死亡する。傍らには毒入りと思しきコーヒーが・・・





 東京で暮らしている箕輪まゆは、兄・要の十三回忌のために、家族が住む千殻村へ帰郷する。バスを降り、激しい雨の中を歩くまゆは若い男の二人組と遭遇する。

 大出(おおいで)と小檜山(こひやま)と名乗った彼らは、傘をなくしてすっかり濡れ鼠。まゆは二人を箕輪家へと案内することに。



 いま箕輪家に住んでいるのは父・征市、母・虹緒(にじお)、姉・ひとみの三人。雨は一層強くなり、村に続く道が冠水して不通となってしまう。そのため男二人は箕輪家に泊まることになった。



 12年前、まゆの兄・要は16歳だった。自室の椅子に座ったまま亡くなっているところを発見され、机の上には毒入りのコーヒーカップが残されていた。

 入っていたのは植物毒のハシリドコロ。近くの山で自生しているものを要が自ら採取して精製していたらしい。さらに現場からは「遺書」が発見されていた。しかし中身は白紙という奇妙なもの。状況は不可解だったが、結局は自殺と判断されていた。



 そして十三回忌の夜、こんどは父親の征市が死亡する。遺体は書斎で発見され、傍らにはコーヒーカップ、そして白紙の「遺書」が・・・





 イギリスの作家アントニー・バークリーに『毒入りチョコレート事件』(1929年)という作品がある。一つの毒殺事件に対して、8つの推理が展開されるという、"多重解決" で有名な作品だ。

 本作は、タイトルからしてこの『チョコレート事件』を意識しているのがわかる。そして本家を超えようとばかりに、作中には多くの工夫・仕掛けが施されている。



 登場人物は虹緒・ひとみ・まゆ・大出・小檜山の五人しかいないにもかかわらず、よくまあこれだけ考えつくものだと感心するくらい多様な推論が展開される。



 そして、本書にはもう一つのストーリーラインがある。本編の合間に、この事件の一年後のエピソードが分割して挿入されているのだ。

 五人のうちの二人が登場し、一年前の推理を検証していくのだが、こちらにも大きなサプライズが隠されている。



 ネタバレになるので触れられないが、わずか文庫280ページの中に「これでもか」とばかりに様々なカラクリが詰め込まれている。

 そして、それによって二転三転どころか四転五転する真相を読者に納得させ、かつダレることなく最後まで読ませる。この筆力はたいしたものだ。





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