観覧車は謎を乗せて



観覧車は謎を乗せて (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

観覧車は謎を乗せて (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)



  • 作者: 朝永 理人

  • 出版社/メーカー: 宝島社

  • 発売日: 2022/05/10

  • メディア: 文庫








評価:★★★☆





 自然公園の中にある観覧車が、突然停止してしまう。ゴンドラ内に閉じ込められた6組の乗客たち、それぞれのドラマが進行していく。それぞれにワケありの親子、男女、女子高生。それに加えて幽霊、殺し屋、爆弾魔と賑やかな(?)登場人物たちの運命は・・・

 第18回『このミステリーがすごい!』大賞・優秀賞を受賞した『幽霊たちの不在証明』に続く第二作。





 市街地から車で20分ほどの水禰(みずね)自然公園にある観覧車が、営業中に突然停止してしまう。『安全装置の誤作動のため』とのアナウンスが入り、乗客たちはその間、各ゴンドラに閉じ込められてしまう羽目に。

 その中の6つのゴンドラの乗客の物語が、並行して展開される。作中では、便宜的に各ゴンドラにA~Fの符号が振られている。





ゴンドラA

 かつての恋人との回想にふけっていた青年・車田。ゴンドラが止まった瞬間、誰もいなかったはずの隣の座席に、見たことのない女性が現れたことに驚く。

 女はユウコと名乗り、このゴンドラに憑依している "地縛霊"。かつて、このゴンドラ内で殺されたのだ。彼女は心残りがあるという。

「あたしを刺した相手が、そのあとどうやってゴンドラを降りたか知りたい」

それが分かるまでは成仏できないと言い出すのだが・・・





ゴンドラB

 御館(みたて)は妻・陽子と別居中。今日は娘の菜々芽(ななめ)と自然公園にやってきた。

「お父さん、観覧車から降りたらどうするの?」

「ああ・・・この後は、山に行くんだ・・・」





ゴンドラC

 殺し屋の男が、依頼人と乗っている。依頼人はセーラー服を着た少女。ただし、なぜか手錠で両手両足を拘束されている。

 彼女の依頼は、ゴンドラが最高点に達したときに、そこから見えるマンションの最上階にいる、一人の男を狙撃することだった・・・





ゴンドラD

 大学生の小針は、5歳年上の女性に思い切って告白した。

「糸口さん、僕の恋人になってください」

「無理。だって君のことキライだもん」

 二人の関係は良好だったと信じていた小針はショックを受ける。何が悪かったのか。小針は彼女との出会いから現在までを回想していく・・・





ゴンドラE

 乗客はのっぽの渚(なぎさ)とちびの蝋子(ろうこ)の女子高生二人組。

 渚は、わざわざの休日に自分を呼び出した蝋子に、何かの意図を感じているのだが・・・

 ちなみにこの二人は、前作『幽霊たちの-』にも登場してる。





ゴンドラF

 酒に酔って寝ていた巴寿久(としひさ)が目を覚ましたとき、そこは観覧車のゴンドラの中だった。そして目の前には段ボール箱とトランシーバー。

 トランシーバーから聞こえてくるのは弟・仁弥(じんや)の声。観覧車近くの芝生の上にいて、そこから話している。そして段ボールの中には金属製の箱、その表面には文字盤があり、数字のカウントダウンが続いている。

 「これは何だ?」「爆弾だよ」

 解除コードを入力すれば爆弾は止まるという。コードは1から36までの数字のどれかだというのだが・・・





 A~Fまでの6組のエピソードはそれぞれ一編のミステリとして成立している。

 それぞれ謎解きであることは共通してるが、青春小説、ユーモア、サスペンスなど各ゴンドラごとに雰囲気が異なる話に仕上げてあるあたりが上手い。

 しかもそれを6つの短編として語るのではなく、それぞれを断片化して並列に綴っていくところに作者の企てがある。それが何なのか想像しながら読むのも楽しい。



 とまあ偉そうに書いてきたんだが、実はこの記事を書くために本書をところどころ読み返していたら、初読の時には気づかなかった "仕掛け" を見つけてしまった。しかも二つも(おいおい)。ひょっとして、まだあったりする?(えーっ)

 つくづく、私の目は節穴なんだねぇ・・・。





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