女警



女警 (角川文庫)

女警 (角川文庫)



  • 作者: 古野 まほろ

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA

  • 発売日: 2021/12/21









評価:★★☆





 交番勤務の23歳の女性巡査が上官の男性を射殺、拳銃を持ったままミニパトで失踪するという事件が起こった。

 県警の監察官室長・姫川理代(ひめかわ・りよ)は、警務部長をはじめ県警上層部が異様なまでに事件の決着を急ぐことに不審を覚える。さらに、この事件に関与することからも外されてしまう。

 この扱いに承服できない理代は単独での調査を始めるが、やがて女性警官を取り巻くさまざまな不条理の存在を知る・・・





 事件はA県豊白市で起こった。JRの駅付近で「銃声が聞こえた」という住民の通報があり、駆けつけたパトカーの警官は、駅前の交番で年野健(ねんの・たけし)警部補の銃殺死体を発見する。そして同僚である23歳の青崎小百合(あおさき・さゆり)巡査の行方が分からず、拳銃を持ったままミニパトで逃走したものと思われた。



 県警は直ちに対策会議を開くが、監察官室長・姫川理代は、直属の上司である警務部長をはじめ、県警上層部が異様なまでに事件の決着を急いでいることに不審を覚える。

 どうやら上層部は、犯人と思われる青崎巡査個人にすべての責任をかぶせ、年野警部補の状況を含めた、事件の背後関係の捜査を行わずに済ませてしまおうとしているらしい。その理由は何か?



 A県警のトップは深沼ルミ本部長。彼女は6ヶ月前の着任以来、〈女性の視点を一層反映した警察づくり〉を掲げて改革に取り組んできた。



 採用者に占める女性の割合を上げ、男性警察官の育児休業取得率を上げ、さらには警察専用の保育所・ベビーシッターを整備し、育児中の女性にはフレックスタイム勤務を認める、etc・・・

 現代の大手民間企業なら既に実現している、あるいは実現を目指して努力している項目ばかりだろうが、警察の現場からすれば夢のまた夢のような改革だ。



 もしもこの「警官殺し」が、女性警官が引き起こしたスキャンダルとして処理されてしまえば、深沼本部長の目指す改革にとって大きな障害となってしまうかも知れない。



 改革を進めれば抵抗が生じる。ましてや保守的な警察組織に風穴を開けるのは至難の業。本書の主人公・理代は28歳のキャリア警察官僚なのだが、その彼女でさえ、物語の序盤から壮絶なつるし上げと嫌がらせに遭遇する。もっとも主役だけあって、彼女はそれくらいでひるむようなタマではないのだが(笑)。



 理代は深沼本部長から内々の承諾を得て事件の内偵を始めるが、上層部からはあからさまな妨害が入っていく。

 彼女と同様な女性管理職、ヒラの新米女性巡査、退職した元女警などと接触した彼女は、警察内部での女性の "生きづらさ" を痛感していく・・・。





 本書で描かれるA県警は、徹底的な男尊女卑社会だ。フィクションなので盛ってある部分はあるかも知れない。県によってはかなり異なる状況もあるだろうし、「働き方改革」が叫ばれている昨今だから、改善されつつある部分もあるのだろう。

 それでも、"話半分" いや "話一割" でも、本書で描かれた "実態" は強烈だ。



 ここで描かれるのは、女性に対する偏見に満ち、傲慢で高圧的、さらには無頓着かつ無慈悲な男どもの姿だ。同じ男としてまことに申し訳なく思ってしまう。



 その内容をいちいち挙げることはしないけど、文庫で500ページ近い本書のうち、半分くらいはこの "実態" の描写に充てられている。読んでいる方が辛くなってきてしまう内容も多い。この時点で読むのを投げてしまう人もいるのではないか?





 本書の舞台である、警察組織という超男性優位社会のなかで、女性が生きていくためには、どう振る舞えばいいのか。本書のミステリとしての中核には、これが深く関わっている。

 射殺事件の真相自体は途中でだいたい見当がついてしまうんだが、終盤になり、警察上層部の裏で展開していた暗闘に巻き込まれた理代は、この "女性問題" が意外な形で深く関わっていたことを知る。



 以前、同じ作者の『監殺』の記事で、「これを読んだら警察官志望者が減るんじゃないか?」って書いたんだが、本書にもそれは当てはまる。

 とくに、女性の志願者は壊滅的なまでに激減するんじゃないかと心配になってしまうよ・・・





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