評価:★★★☆
新人の女性刑務官・河合凪(かわい・なぎ)は、政府委託の民間刑務所で働くことになった。鉄格子の中と外、刑務官と囚人。しかしどちらも同じ人間で、過去を持ち傷を抱えているものばかり。そんな "塀の中" で繰り広げられるドラマとミステリを描いた連作短編集。
新人女性刑務官・河合凪が働くことになった民間刑務所。そこには様々な囚人が収容されていた。
阿久津真哉(あくつ・しんや)は自由気ままにふるまい、刑務官への受けを良くしようなど全く思っていない様子。まるで刑務所から出たくないような。しかし囚人たちからは人望があって、どこに回されてもリーダーになってしまう。本書のもう1人の主人公と云える。
赤崎桐也(あかざき・とうや)は強盗殺人罪で収監されてきた。相手が刑務官であろうと、誰彼構わず暴力を振るう凶悪さのため、独房に入れられている。
一方、同僚たちにも印象的な人物が配置されている。
北田楓(きただ・かえで)は凪の先輩となる男性刑務官。まだ20代だが経歴は長く仕事も堅実。クールで感情を表さない。
西門(にしかど)は刑務所に常駐している若い女医で、凪の良き相談相手。
鉄格子の中と外、さまざまな人生が交錯する中、新人刑務官・凪の過ごす日々が綴られていく。
「第一話 鉄格子と空 ー 河合 凪」
凪は、外国人受刑者・フーの身体に不審なあざがあることを発見する。さらにフーは自傷未遂事件を起こしてしまう。
一方、受刑者が作業する鉄工場でドライバーが1本行方不明になる。そこの管理者は阿久津が務めていた。このままでは阿久津が責任を問われる。何者かの嫌がらせだろうか・・・
「第二話 罪人 ー 阿久津真哉」
受刑者の寺元を月に1度訪ねてくる女性がいた。彼の裁判を傍聴したのがきっかけだったという。出所が迫ってきた寺元は、彼女にプロポーズすると言い出すのだが・・・
「第三話 贖罪 ー 山本芳史/北田 楓」
酒に酔って相手を殺した山本は懲役5年となった。刑務所内で、被害者遺族へ謝罪の手紙を書き続ける日々。そんな彼のもとを弁護士・高塚智明(たかつか・ともあき)が訪ねてくる。山本と同時期に入所した受刑者・赤崎桐也のことを聞きたいという・・・
ちなみに、本書がシリーズキャラクター・高塚弁護士の初登場なのだとか。
「第四話 獣と目撃者 ー 奥田佐奈/高塚智明」
弁護士・高塚は、強盗殺人で服役中の赤崎の弁護人となった。依頼者は奥田水緒(おくだ・みお)。赤崎が殺害した男の妻だった。依頼内容は赤崎の再審請求。なぜ彼女は夫を殺した男の再審を願うのか・・・
本書の中でもっともミステリ度の高いエピソード。
「第五話 追放/解放」
阿久津の出所の日が近づき、釈放前準備が始まった。しかし凪の発した一言がもとで、ひと晩のあいだ保護房(攻撃的な受刑者や興奮した受刑者を一時的に収容するための房)で過ごすことに。鉄格子を挟んでお互いの過去を打ち明け合う2人。そして保護房を出た阿久津の耳に響いたのは、非常ベルの音だった・・・
物語が進むうちに、登場人物たちの過去が明かされていく。
阿久津が犯した殺人と、犯行に至った理由。北田が経験した哀しい過去、そしてそれへの後悔が彼を刑務官へと導いた。この2人は対照的だ。きっかけひとつによっては、北田も塀の中にいたかも知れない。
そして凪自身もまた、幼い頃に "ある犯罪" によって家族が崩壊した影を引きずっている。
死刑にならない限り、人間は生き続けていく。罪を背負って塀の中にいた者も、いつかは社会の中に戻って、生きていかなければならない。
受刑者にとってそれは解放なのか、それとも楽園からの追放であり、新たな受難の始まりなのか。
物語の終盤、阿久津もその日を迎える。だが、彼を見つめる作者の目は優しい。それが救いとなって、穏やかに物語の幕を引く。
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