評価:★★☆
「神楽坂を舞台に怪談を」との依頼を受けた作家の〈私〉。かつて体験したことを題材に、短編1作のみで終わるはずが、次から次へと怪異が続き、続編を執筆することに・・・
ドキュメンタリー形式で語られるミステリアスな怪談。
「第一話 染み」
「怪談」をテーマに、『小説新潮』から短編小説の依頼を受けた "私" は、過去の体験をもとに小説化することに。
8年前、"私" は友人の瀬戸早樹子(せと・さきこ)の紹介で角田尚子(つのだ・なおこ)という女性と会った。
尚子は結婚を考える男性がいて、『神楽坂の母』と呼ばれる評判の占い師を訪ねたところ、「不幸になる」「結婚しない方がいい」と断言されてしまった。
しかし相手の男性は別れ話に対して怒り出し「別れるなら死んでやる」と言い出した。男の行動は次第にエスカレートするが、ある夜、交通事故で死亡してしまう。
"私" から相談を受けたオカルトライターの榊桔平(さかき・きっぺい)は、死亡事故の状況から、ある推理を組み立てるのだが・・・
作中に登場する、ある "アイテム" が実に怖い。それが文庫本の裏表紙にも載ってるので二度びっくり。
「第二話 お祓いを頼む女」
フリーライターの鍵和田君子(かぎわだ・きみこ)のもとに、ある日突然、平田千恵美(ひらた・ちえみ)という女性から電話がかかってくる。お祓いをお願いしたいという。「私、祟られているんです」
夫は交通事故に遭い、息子も様子がおかしいという。
お祓いはできないというと、できる人を紹介しろという。どう話しても会話がかみ合わない。なんとか電話を切るがその数時間後、こんどは本人が君子の家に現れる。
君子から話を聞いた榊は、ある推理を提示する。それですべて解決かと思われたのだが・・・
ミステリ的な解決がなされたと思ったら、さらに(ホラー的に)ひとひねり。
「第三話 妄言」
新婚の塩谷崇史(しおや・たかふみ)は埼玉県の郊外に家を買った。条件のよい物件で喜ぶが、ある夜、帰宅した彼を妻は詰問する。隣家の主婦である前原寿子が、崇史の浮気現場を目撃したというのだ。
寿子の処へ抗議に向かうが、彼女は「絶対に間違いない」との一点張り。どうやら彼女は、そのように "信じ込んでいる" らしい。
「とんでもないところへ家を買ってしまった・・・」後悔する崇史だが、妻は次第に寿子に感化されていってしまう・・・
このあと悲惨な出来事が起こり、それを取材した榊によって、寿子がとった行動の "理由" が推測されるのだが・・・。こんな "迷惑な隣人" がホントにいたら恐怖そのものだなぁ。
「第四話 助けてって言ったのに」
ネイルサロンで働く智世(ともよ)は、夫・和典の実家で義母・静子と同居していた。姑との仲は良好だったが、同居を始めた頃から奇妙な悪夢を見るようになった。
家が火事になり、炎と煙に追われて焼け死ぬというものだ。それを聞いた和典は驚く。それと全く同じ悪夢を、かつて静子も見ていたのだという。
悪夢の原因が住んでいる家にあるのではないかと考えた和典は、家を売りに出す。幸い、買い手がついたのだが・・・
榊の推理は、関係者の "善意"(悪意ではない)を明らかにするが、善意が必ずしも人を救わないという哀しい話。
「第五話 誰かの怪異」
千葉県内の大学に入学した岩永幹男(いわなが・みきお)は、格安の古アパートで一人暮らしを始めた。しかし、やがて怪異に見舞われるようになった。
風呂場の排水溝に大量の毛髪(明らかに自分のものではない)が詰まっていたり、突然TVのチャンネルが切り替わったり、洗面所の鏡の中に見知らぬ高校生くらいの少女が映っていたり。仲介の不動産屋に問い合わせたところ、過去にアパートの隣室で4歳の少女が亡くなっているという。
友人に怪異を話したところ、"霊が見える" という男・岸根を紹介される。アパートにやってきた岸根は、「ここには霊がたまりやすくなっている」というのだが・・・
このあと物語は二転三転して、明らかになるのは死者ではなく、生者の悲しみ。
「最終話 禁忌」
五話目まで書き終わった "私" は、まとめた原稿を榊に送る。彼に書評を書いてもらうためだったが、彼と話をしているうちに、"私" は5つの話に意外なつながりがあることに気づくのだった・・・
巻末には、"榊桔平が書いた書評" まで載っている。もちろんこれも作品の一部となっており、芸が細かいというか・・・
総じて、どの話も奇怪な事態が発生する。その一部は榊によって解き明かされるのだけど、それでも謎は残り、それによって、より恐怖感が増すという作り。
ミステリ要素とホラー要素の比は 4:6 というところかな。謎が解けても全然安心できないのはイヤだなぁ。やっぱり私はホラーが苦手です。
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