ノッキンオン・ロックドドア2



ノッキンオン・ロックドドア2 (徳間文庫)

ノッキンオン・ロックドドア2 (徳間文庫)



  • 作者: 青崎有吾

  • 出版社/メーカー: 徳間書店

  • 発売日: 2022/11/09

  • メディア: 文庫








評価:★★★☆





 不可解な謎専門の御殿場倒理(ごてんば・とうり)、不可能な謎専門の方無氷雨(かたなし・ひさめ)。大学のゼミ仲間だった2人が設立した探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」に持ち込まれる奇妙な事件を描く連作ミステリ・シリーズ、第2巻。





「穴の開いた密室」

 石住茂樹(いしずみ・しげき)という男が殺される。被害者はDIY好きで自宅の離れを作業場にしており、遺体もそこで発見された。

 ドアは施錠されており、鍵は遺体のポケットに。典型的な密室殺人かと思いきや、現場の壁にはチェーンソーで巨大な穴が開けられていた(おいおい)・・・

 穴を開けた理由が解明されると、それがそのまま犯人の絞り込みにつながる。上手い。





「時計にまつわるいくつかの嘘」

 公園で女性の死体が発見される。容疑者は彼女の恋人のバンドマン。

 彼女が身につけていた腕時計は、7時40分を指したまま壊れていた。この時計、精密機器メーカーと大手時計メーカーがコラボして制作した完全受注品で、一度時間を設定したら電波による自動修正で、"死ぬまで一切狂わない" のがウリ。当然、手動で時間をずらすなんてことは不可能。つまり犯行時刻は7時40分で確定。しかしその時刻に容疑者はライブハウスで演奏中だった・・・

 "壊れた時計による偽装" ネタを新しい視点でアップデート。アリバイ崩しの後に、さらにもうひと捻り。





「穿地警部補、事件です」

 倒理・氷雨と大学のゼミ仲間だった穿地決(うがち・きまり)警部補。レギュラーキャラの彼女が主役を張る。

 ジャーナリストがマンションの7階から転落死する。死者の部屋の様子から他殺が疑われた。捜査が進み、目撃情報が出る。近隣のマンションの住人が、被害者が転落した10分後にその部屋のベランダに女の姿を目撃していた。

 容疑者の女性が捕まり、ここで倒理・氷雨が登場して、"犯人が弄したトリック" を解明するのだが、穿地はそのさらに上をいく "真相" を見破る。

 ミステリにおいて、探偵の相棒を務める警官はワトソン役がせいぜい。だが彼女はそんな "枠" に収まらない。

 警察の上級幹部に連なる身分なのだが、それゆえの "しがらみ" もある。しかし彼女はそんなものには縛られない。いやあ、素晴らしいキャラだ。





「消える少女追う少女」

 探偵事務所に現れた女子高生は、人捜しを依頼する。親友の潮路岬(しおじ・みさき)が失踪したという。二日前、駒込駅で線路の向こう側にいた岬を見つけた。声を掛けたら彼女は地下通路(線路の下を通って両側をつなげる連絡通路)に入っていった。しかし、こちら側へ出てこない。彼女は通路の中で消えてしまったのだ・・・

 いわゆる "人間消失"。トリックだけを取り上げたら拍子抜けしてしまうレベルなんだが、この部分の解明が事件全体の様相を一変させるという構成が巧み。





「最も間抜けな溺死体」

 話題のIT社長が変死する。現場は会員制プール。発見は朝8時。検死の結果、頭に傷はあったが死因は溺死、水に8時間使っていたことが判明。しかし、プールは午前0時に注水が始まったことから、死亡時にはほとんど水がなかったことがわかる。

 泥酔していたIT社長がプールの状態に気づかずに飛び込んだところ、頭を打って気絶してしまい、そのまま水位の上昇で溺死した、という間抜けな死に方をしたと思われたのだが・・・

 トリックを弄する犯人は勤勉だ(笑)。今作でも、自分が容疑から逃れるために実によく動き回る。たいしたものだ(おいおい)。





「ドアの鍵を開けるとき」

 御殿場倒理・方無氷雨・穿地決。この3人に加えてもう1人のゼミ仲間だった男・糸切美影(いときり・みかげ)は、ホームズものにおけるモリアーティのように、過去のいくつかの事件において、黒幕として暗躍していた。

 その美影が突然、探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」に現れる。大学在学中に4人の間に起こった "事件" の謎解きを依頼しにきた、と云って。

 氷雨は回想する。"卒業試験" として指導教授から示された "課題" の調査を、そしてアパートの一室で倒理が何者かに襲われた事件を・・・

 この短編集の最後を締める本作で、美影との "暗闘" にも一区切り着いたようにみえる。ここで完結なのかも知れないとも思うし、続くとしても今までとは違う雰囲気になりそうな予感もする。





 一編が文庫で40ページほど(「ドアの-」だけは80ページ)とコンパクトだが、本格ミステリとしての密度が高いシリーズなので、続きは読みたいな。

 いつになるか分からないけど期待してます。





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