探偵は絵にならない



探偵は絵にならない (ハヤカワ文庫JA)

探偵は絵にならない (ハヤカワ文庫JA)



  • 作者: 森 晶麿

  • 出版社/メーカー: 早川書房

  • 発売日: 2020/02/20









評価:★★☆





 鳴かず飛ばずの画家・濱松蒼(はままつ・あお)。同棲していた恋人・フオンも彼のもとを去ってしまう。彼女を追って故郷の浜松に戻った蒼は、友人・小吹蘭都(おぶき・らんと)のもとに転がり込む。そんな蒼は、奇妙な事件に巻き込まれていく。





 主人公・濱松蒼は、23歳で絵画の登竜門とされる藤田東呉(とうご)賞を受賞して華々しくデビューしたが、5年後の現在は鳴かず飛ばずの状態。高校の同級生で恋人のフオンと同棲していたが、ある日彼女は出て行ってしまう。後日届いた郵便の消印は2人の故郷である浜松のものだった。



 ちなみにフオンはベトナム出身。現在は帰化して日本国籍をもち、漢字表記は「芙音」。ダンサーを生業にしている。



 蒼は浜松へ戻り、友人でアロマセラピストの小吹蘭都のもとへ転がり込む。フオンを探すうちに、蒼は奇妙な事件に巻き込まれていく。





「第一話 逃げたモチーフ」

 蒼は高校の同窓会に出席する。フオンの情報をつかむためだ。そこで同級生だった天笠佑子に、自分のヌード画を描いてほしいと依頼される。

 蘭都からアトリエとして借りていたガレージに招き、佑子の絵を描き始めるが、ちょっと目を離した隙に彼女は姿を消す。同時に、蒼がいちばん大事にしていた、フオンを描いた絵が消えていた・・・





「第二話 死と師と雨」

 絵画を教えてくれた恩師・水無月晴雄(みなづき・はるお)の墓参りに来た蒼は、そこで晴雄の娘・柚香(ゆずか)と再会する。

 ピアニストとして活動している柚香は、最近スランプに見舞われていた。ピアノの前に座ると精神的に不安定になるのだという。しかし生活のためにも仕事は休めない。さらに彼女のピアノの師・土井幸介は末期がんで入院していた。

 翌日には地元のフェスティバルでの演奏があり、土井も病院の許可を貰って見に来る予定だ。柚香は蒼に、リハーサルの段階から会場にいてほしいと頼むのだが・・・





「第三話 アムリタ夫人」

 フオンを探す蒼は、彼女の高校時代の元カレ・今井君人(きみと)と再会する。"うなぎマカロン" なる菓子で一山当て、非常に羽振りがいい様子。しかし2年前に妻を亡くし、8歳の息子・和人(かずと)は引きこもりになっていた。

 君人は蒼に、和人の肖像画を描くことを依頼する。しかしそれは口実で、蒼と息子との間でコミュニケーションが成立することを期待していたのだ・・・





「第四話 アフターローズ」

 蒼は静岡電興社長の石岡という男から肖像画の依頼を受ける。雑居ビルの4階にある本社事務所で打ち合わせをするが、胡散臭いものを感じる蒼。他のフロアの住人に聞いたら、このビルに静岡電興なる会社は存在しないという。

 ビルから出た石岡を尾行した蒼は、彼が駅前のホテルで意外な人物と会っているところを目撃する・・・





 一話完結形式だが、フオンの消息については断片的に手がかりが描かれており、もう一つの "事件" が水面下で進行している。

 「第四話」のラストに至り、"事件" の全容、そして彼女の失踪の理由も所在も明らかになるが、蒼とフオンの物語としては完結せず、次巻以降への持ち越しとなる。



 「あとがき」によると、浜松は作者自身の故郷でもあるらしい。作中では10年後に再訪した蒼がその変貌ぶりに驚くシーンが随所にある。これは蒼に限らず、故郷を出てきた人なら多かれ少なかれ経験することだろう。



 私なんぞ故郷を離れてもう30年になる。まあちょくちょく顔を出しているから極端にびっくりはしないが、それでも小学校の帰りに寄っていた駄菓子屋が更地になってたり、畑だったところにマンションが建ってたり、駅前が再開発されて、ばかでかいビルが出現したりと、子どもの頃の情景が跡形もなくなっている場所は少なくない。



 そんな故郷でも、ありがたいもので、帰るたびにいろいろなことを思い出させてくれる。実家で暮らす母もかなりの高齢になってきたので、もっと頻繁に逢いに帰らんといかんなぁ・・・





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