評価:★★★★
《始まりの錬金術師》が遺した水銀製の塔。訪問客たちは突然の嵐によって外部とは孤絶し、やがて起こる不可解な連続密室殺人事件。
アスタルト王国の錬金術師テレサとその "付き人" エミリアのコンビが、錬金術がらみの事件を解決していくファンタジー・ミステリ・シリーズ、第2巻。
アスタルト王国軍務省に所属する錬金術師テレサとエミリア少尉は、《水銀塔》の調査を命じられる。
それは隣国バァル帝国との国境の川の中州に建つ、高さ50mほどの塔で、外壁(および一部の内壁)が "液体水銀" で生成されているのでその名がある。
それは2000年前、《始まりの錬金術師》トリス・メギストスが遺したと伝わる建造物だ。現在は中立的な宗教国家シャプシェの管理下にあり、聖地故に多くの巡礼者が訪れていたが、人が姿を消してしまう "神隠し" が起こっているという不穏な噂もまた流布していた。
《水銀塔》に到着した2人が出会ったのは、《塔》を管理する聖職者たち、教会聖騎士団とその関係者たち、一般の巡礼者たちに新聞記者、そしてバァル帝国の錬金術師と調査員の2人組だった。
しかし突然の嵐が襲来、塔は外部から孤絶してしまう。そしてその夜、聖騎士の1人が首無しの遺体となって見つかる。
現場は塔の一室だったが、各人に割り当てられた部屋には個人認証パネルが設置され、他者が開けることはできない。
しかも午前0時から午前6時までの間は完全にロックされ、部屋の扉は中からも外からも、誰も開けることができなくなる。そして被害者は、午前0時前に部屋に戻ったことが確認されていた。つまり密室殺人だということだ。
さらにもう1人の死体が発見され、連続殺人事件の様相を呈してくる・・・
ファンタジー世界のミステリであるので、前作同様に "こちらの世界" にはない錬金術や編成術などの "技術" が存在するが、それぞれにできることできないことなどの制約はきちんと設定されている。
この世界だからこそ可能なトリックも当然出てくるのだが、それに加えて今回は、いわゆる "館ミステリ"(塔だけど)になってる。
舞台である塔の特殊なつくりが、真相に絡んでいるのは間違いないだろう、とは思うのだが、見抜けないんだよねぇ。明かされてみれば、たしかにこの塔だからこそ成立するトリックなんだが・・・島田荘司ばりの驚きのスケール。これは凡人には想像すらできないね。お見事です。
前作もそうだったが、真相解明も二段構え。これで解決かと思わせて、さらにひとひねり。いわゆる "捨てトリック" もそれなりに考えられていて、手を抜いてない。
今回の登場キャラで印象に残るのは、やはりバァル帝国の2人組。
錬金術師のニコラ・フラメルは、ちゃらんぽらんなテレサとは真逆のキャラ。前作を読んで、錬金術師は変人ばかりだと思ってた(笑)からちょっと意外。
そして情報部所属のシャルロッテ・アイゼナッハ中尉。エミリアとは学生時代に "ある因縁" で結ばれた女性だった。
この2人はこれから先も登場してきそうだ。
主役のテレサとエミリアは、前作のラストで "ある目的" のために共闘する仲になったのだけど、本作のラストではさらにこの世界の "創世の秘密"(かも知れないこと) の一端に触れることに。
そしてこれは2人の ”目的” にも関わってきそうな気がする。続巻が楽しみだ。
この記事へのコメント