評価:★★★
いわゆる "古典的名作" と呼ばれるミステリ作品集。丸顔で小柄で不器用なブラウン神父が探偵役として活躍する、全5巻シリーズの4巻目。
「ブラウン神父の秘密」
犯罪者から探偵へと転身したフランボウは、スペインの小城で引退生活に入っていた。そこをブラウン神父とアメリカ人観光客チェイスが訪れる。
なぜ数々の事件の真相を見抜くことができたのか、と問うチェイスに、神父はかつて手掛けた事件を語り出す・・・というわけで、この短編集全体の "プロローグ" になっている。
「大法律家の鑑」
ハンフリー・グイン判事が射殺された。現場に駆けつけた警官たちは、弾丸の装填された判事の銃を発見、どうやら彼は襲撃を予想していたらしい。
現場近くの壁に掛かった鏡が割られていたことから、ブラウン神父は犯人を割り出していく。
「顎髭の二つある男」
レオポルド・ブルマン卿が住むブナ屋敷で盗難が発生、夫人の宝石が奪われる。時を置かずに、近所に住むバンクス家にも謎の人物が侵入、家人に射殺される。死体は養蜂業を営むスミス老人だったが、ブラウン神父は彼は窃盗犯ではないという・・・
文庫で約30ページしかないのに登場人物がかなり多く、"犯人" の行動も不可解。ちょっと詰め込みすぎかなぁ。この倍のページ数でじっくり書いてほしかった。
「飛び魚の歌」
ペリグリン・スマート氏自慢のコレクションは、黄金製の金魚。しかし彼がロンドンへ出かけた夜、スマート邸に異国の衣をまとった謎の人物が現れ、金魚を奪って去ってしまう。
ミステリ的にはわかりやすいかなとも思うが、改めて、欧米の人は中近東~インドあたりに対して神秘なイメージを強く持ってるんだなぁ・・・と思った。
「俳優とアリバイ」
芝居『醜聞学校』の稽古中、劇場支配人マンドヴィルが殺される。俳優陣に容疑がかかる一方、最近マンドヴィルのもとを女が訪ねてきていた、という証言も出てきて・・・
これも文庫30ページそこそこなのだが、犯人が自分の犯行時間をひねり出していた方法とか、舞台稽古の進行の仕方がわかっていないと書けないのではないか。動機も独特で、長編にもなりそうなネタ。
「ヴォードリーの失踪」
アーサー・ヴォードリー卿は、自宅屋敷近くの村落へ散歩に出かけたまま、行方不明になってしまう。残されたのは、屋敷に厄介になっていた2人の若者、エヴァン・スミスとジョン・ドールモン。そして、卿が後見していたシビル・ライ嬢。
単純な失踪事件かと思われたが、ブラウン神父は事件の背後にあった意外な陰謀を見抜く。
「世の中で一番重い罪」
ブラウン神父の遠縁の娘エリザベスに縁談が持ち上がる。相手はマスグレーヴ大尉。
一方、弁護士のグランビーは大尉から多額の借金を申し込まれていた。弁済は大尉の父親ジョン・マスグレーヴ卿が請け負うという。グランビーはそれを確認するために神父とともに卿に会いに行くのだが・・・
「メルーの赤い月」
マウンティーグル卿は、自宅の屋敷に世界的に名高い占い師《山岳尊師》を招いた。数人の招待客が屋敷の庭に張った《尊師》のテントを訪れたあと、宝石の盗難事件が起こる。
犯行の一部始終を目撃した人物が捕まえた犯人は《尊師》だった。しかし彼の体のどこからも舗石が見つからない・・・
《山岳尊師》がどこの国の人かは書いてないんだが、彼の付き人がインド人とある。やっぱりイギリス人はインド好き?
「マーン城の喪主」
ピクニックに出かけた一行は、天候の悪化によって帰り道を急ぐ。その彼らの前に現れたのは、マーン侯爵の城だった。
マーン候は、30年前に最愛の弟を亡くし、失意のために城に籠もるようになり、《誰も知らない貴族》と呼ばれるようになっていた・・・
このシリーズではよく使われているネタではある。現代ではまず無理だが、この時代なら可能だったのだろう。
「フランボウの秘密」
この短編集の "エピローグ"。チェイスの問いに対して、ある"答え"を返す神父。
現代のミステリならば、同様のことを口にする探偵役は少なくないと思うが、ブラウン神父は100年前のこの時代からそれを表明していたとは畏れ入ることだ。
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