評価:★★★★
"時間遡行(時間のループ)" を証明しようとする北神博士の実験のために集められた8人の男女。実験は成功し、8人は1日前の世界へと戻った。しかしそこには、前回には存在しなかった博士の死体があった・・・。ループする時間の中で殺戮を続ける "時空犯" の正体は? そして、なぜ "時間遡行" は起こるのか?
情報工学の天才・北神伊織博士。彼女の立案した実験のために8人の被験者が集められた。目的は "時間遡行(ループ)" の証明。報酬は1000万円。
主人公は集められた被験者の1人、姫崎智弘(きさき・ともひろ)。私立探偵だ。
他のメンバーは元官僚、ラブホテル経営者、警察官、男子高校生、盗聴盗撮の検出請負業者、芸能事務所スタッフ、そして女性タレント・蒼井麻緒(あおい・まお)。なかなかバラエティに富んだ人選だ。
博士によると、時間はそもそも、何度もループ(1日前に戻る)を繰り返しており、人間はループのたびにその日の記憶を失っているという。
博士はループによっても記憶を失わない体質で、幼少の頃から何度も同じ1日を繰り返す体験をしてきたのだと。
博士が用意した新薬を服用すると、記憶を失わずにループできる。つまり、博士と同じように同じ1日を繰り返し体験できるはずだ。
"時間遡行" は、深夜から未明にかけて起こる。新薬を服用した8人は、確かにループを経験した。翌朝、時間が1日前に巻き戻っていたのだ。
しかし "前回" と異なり、北神博士が何者かに殺害されていた・・・
さて、本作でのタイム・ループは1回では終わらず、参加者にとっては2回目のループが起こる。今度は北神博士は生きた状態で登場するが、その後は前回のループ時以上の凄絶な殺人が繰り広げられる。本格ミステリというよりは、もはやバイオレンス・アクションみたいなシーンの連続で、いささか驚かされる。
タイム・ループの発生については、ちゃんと理由が用意されている。なんとなく70年代の日本SFの雰囲気を感じる設定で、小松左京とか山田正紀あたりが書いててもおかしくないと思うネタ。このあたりも読みどころのひとつだろう。
もう一つの読みどころは、姫崎と麻緒の関係だ。
麻緒が小学生の頃、家庭のトラブルで悩んでいるところを姫崎が救ってやったという経緯がある。以来、彼に想いを寄せるようになり、中学から高校にかけて姫崎の事務所に入り浸っていた。
2人の年齢差はおよそ一回りあるのだが、それ以上に、姫崎には麻緒の想いに応えられない "ある理由" があった。
麻緒が大学生になって距離ができ、姫崎は一息ついていたのだが、この実験で図らずも再会し、彼女の恋情は再燃してしまう。
2回目のループ以降、物語に占める2人のラブ・ストーリーの割合は上昇し、いわゆるタイム・ループものの "定番" の展開になっていく。
あるときはSF、あるときはバイオレンス・アクション、そしてまたあるときはラブ・ストーリー、と様々な面をもつ本書だが、ラストはきちんと本格ミステリとして着地する。
タイム・ループについても規則性や制限がきちんと開示され、姫崎はそれらに加えて作中にちりばめられた手がかりをもとに、地に足のついた現実的な推論を積み重ねて "時空犯" の正体に迫っていく。
なかなか "具" が多くて、"ごった煮" の様相を呈しているので、読む人を選ぶかも知れないが、私は十分に楽しませてもらいました。
この記事へのコメント