評価:★★★★☆
幼い頃に誘拐されたことがある菊池藍葉(きくち・あいは)。事件は短時間で解決したが、17歳になった彼女の前に私立探偵が現れる。依頼人が藍葉に100万円を渡したいというのだ。これは誘拐犯人からの謝罪金なのか? 藍葉は、探偵に犯人の行方を調べるように依頼するが・・・
本書には主人公が2人いる。
まずは菊池藍葉。
彼女は6歳の時、誘拐されたことがある。犯人は梨本朱里(なしもと・あかり)。不妊治療で悩んでいた彼女が衝動的に起こしてしまった事件だったが、2時間後に逮捕されて事件は解決した。
現在は17歳。高校を中退してウェブデザイナーのアルバイトをしている。母親とは折り合いが悪く、現在は一人暮らし。
その藍葉の前に現れた私立探偵が、もう1人の主人公・森田みどり。
彼女は藍葉に100万円の現金を渡すためにやってきた。「あるかた」からそう依頼されたのだという(みどり自身も「あるかた」が誰なのかは知らされていない)。
藍葉は朱里が謝罪のために用意したものだと感じ、100万円は受け取らず、逆にみどりに朱里の行方を調べるように頼み込む。
藍葉は誘拐されたとき、連れ込まれた部屋である光景を見た。長方形の枠の中に様々な色が描かれたものだった。今でも夢に見るくらい衝撃的な経験で、あの光景の "正体" が知りたかったのだ。
みどりは藍葉の依頼で朱里の行方を調べ始めるが、当時の夫とは離婚し、消息不明の状態。しかし、乏しい伝手をたどって朱里の過去を明らかにしていくうちに、誘拐事件の裏に隠されていた "秘密" に近づいていく・・・
物語は、この2人の女性の行動を交互に描いてゆく。
藍葉とみどりのキャラクターが対照的だ。
他者とのコミュニケーションが不得手な藍葉。高校中退もそれが原因のひとつ。しかし色彩感覚には天才的なものがある。例えば色を16進数コードで感じることができる。例えば midnightblue を #191970 と言うことができたり。これがタイトルの由来にもなっている。
作中では彼女の才能に惚れ込んだクライアントから、ご指名で仕事が舞い込むシーンがある。ただ、チームでの作業に不慣れな藍葉は苦労する羽目になるのだが・・・
みどりのほうは逆に、コミュニケーション能力に長けている。接触した相手から、巧みに必要な情報を引き出していくシーンには唸らされてしまう。
探偵という職業では、しばしば危険な場面に巻き込まれてしまうことがあるが、彼女はその "緊張感" を心地よく感じる、という困った "性癖" があった。現在は1歳の子をもつ育休中の身でありながら、藍葉の依頼を引き受けてしまったのもそのせいだ。
この2人は、並外れた技量を持ちながら、行動に安定さを欠くという共通点がある。だから、読んでいるとハラハラさせられる。
「そっちへいったら危ないぞ」って方へ、2人ともふらふらっと入り込んでしまったりするんだもの(笑)。まあ、それがサスペンスを高める要素にもなってるんだが。
みどりの探索によって、朱里が引き起こした誘拐事件の意外な真相が明らかになっていくのだけど、本書の読みどころはそこだけではない。
事件を通じて、藍葉もみどりも変わっていく。成長と云ってもいい。どう変わっていくかは読んでのお楽しみだが、そこまでの経過もすこぶる面白く、ページを繰る手が止まらない。
そして2人の着地点が示されるラスト。納得すると同時に素晴らしい読後感を味わうだろう。
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