評価:★★★
主人公・海砂真史(うみすな・まふみ)は中学2年生。彼女は奇妙な謎に出会うたび、幼馴染みで不登校児の鳥飼歩(とりかい・あゆむ)を訪ねて力を借りる。
「依頼人」と「探偵」だった2人の関係が変わり始める、ミステリ・シリーズ第2巻。
語り手の海砂真史は札幌で暮らす中学2年の女子生徒。169cmと高い身長をコンプレックスに感じているが、女子バスケット部で熱心に活動している。
探偵役となる鳥飼歩は真史の幼馴染みの男子だが、中学校には通っていない、いわゆる不登校状態。しかし頭のキレは抜群だ。
名探偵キャラの常として、彼もまたかなりの偏屈者だ(笑)。でもスイーツに目がないので、それに釣られて探偵として動き出す。
真史の周囲、あるいは彼女自身に起こった事件の謎を、歩が解き明かしていく ”日常の謎” 系連作短篇集、第2巻。
「第一話 ロール・プレイ」
真史は歩から、彼女の通う中学校の英語講師・水野梨花(みずの・りか)にまつわるエピソードを聞く。
4年前、歩が小学4年生の時に通っていた塾の講師が梨花だった。同じ塾の生徒で6年生だった鹿取一樹(かとり・かずき)は、彼女が大学で演劇をやっていることを知り、観に行く。しかしそれを周囲に話してしまったことで、梨花の不興を買うことに。
その3ヶ月後、一樹は梨花から一人芝居の手助けをしてもらうように頼まれる。しかしその公演の日、梨花はなぜか途中で舞台から降りてしまった・・・
いわゆる What done it (何が起こっているのか?)のミステリだ。明らかになるのは、梨花が演劇に情熱を傾けていたがゆえの事態。
うーん、青春はややこしい(笑)。
「第二話 正解にはほど遠い」
真史の前に、鹿取一樹の妹・彩香(あやか)が現れる。中学1年生で真史の後輩でもある彩香は、真史のバッシュ(バスケットシューズ)を借り受ける。
鹿取兄妹の家は洋菓子店で、クリスマスシーズンに実施する〈お菓子の家〉のプレゼントクイズにバッシュを使うのだという。
そのクイズは、真史のバッシュが写った数枚の写真で構成されていた。しかし正解が分からない。例によって歩に相談を持ちかけるのだが・・・
暗号ものの一種だが、これはなかなか難しい。ベースになっているものは至ってシンプルで身近なものではあるのだが、意外と気づけないところにある。
「第三話 作者不詳」
美術教師・柳の担当する授業を終えた真史は、美術準備室の中に鉛筆書きのデッサンを見つける。それは真史の右手を描いたもののように思われた。なぜそんなものがここにあるのか・・・
そして新年を迎え、初詣を終えた真史たちは街中で柳に出会う。しかし彩香の聞いた話では、柳は冬休み中ずっと沖縄に行っていたはずだという。
さらに、美術室の鍵締めを巡って柳の行動に不審なものを感じた真史は、歩に相談するのだが・・・
これも What done it のミステリだ。歩によって謎のおおかたは明かされるが、残された部分もある。これは次巻以降の伏線になってるのかな?
「第四話 for you」
冬休みの後半、仙台の祖父母の家へ帰省した真史。そこへ歩から電話がかかってくる。いまアメリカにいて、真史が札幌に帰るのと同じ日に帰国するという。
空港で待ち合わせをした2人は、互いにお土産を交換するのだが、始業式後に会った彩香は、歩から東京の土産をもらったという。いったい歩は冬休み中にどこに行っていたのか?
シリーズ初だが、真史が歩の行動を解き明かしていく構成。同時に、これをきっかけに2人の関係が一歩先に動き出しそうな予感を残して全編の終了となる。
いままで「依頼人」と「探偵」という立場で接してきた2人。しかし本書において鹿取彩香という "撹乱要素(笑)" が登場してきたことで、2人の関係に変化が生じ始める。
歩へ好意を抱いていることを、行動のはしばしに示す彩香をみて、真史の心は平穏ではない。一方、歩のほうも真史との関係をはっきりさせる必要を感じ始めているようだ。
積み残し(?)の謎もありそうだし、次巻以降の展開が楽しみだ。
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