評価:★★★★
中学3年生の山根理子(やまね・りこ)の前に現れた少年は、3年前に亡くなった友人・瀬戸加奈子の弟・悠人(ゆうと)だった。理子の抱えている "秘密" を知っていると語る悠人は、彼女に対して自分の父親殺しに加担するよう強要してくるのだが・・・
主人公の山根理子は、「人を傷つけてしまうのではないか」という強迫観念に囚われていた。そのため、刃物を手にすることができない。
頭の中に渦巻く殺人への衝動を、"架空の殺人計画" としてノートに書き出すことでかろうじて精神の平衡を保っている。
折しも彼女の暮らす街では、ホームレスが殺される事件が起こる。ひょっとして自分が殺したのではないかとまで悩んでしまう理子。
そんなとき、理子の前に現れたのは中学1年生の瀬戸悠人。理子の友人で、3年前にマンションの屋上から転落死した加奈子の弟だった。
彼女の死は事故と判定されていたが、実は加奈子の死について、理子は "ある秘密" を抱えていた。
悠人は「自分はそれを知っている。暴かれたくなければ、自分の "計画" に協力しろ」という。
彼の "計画" とは、父親・龍馬(りょうま)を殺すこと。悠人は父親からのDVに晒されていたのだ。
最初は嫌々ながら計画に加わった理子だが、人を殺そうとしている悠人の心の中に、共感するものを感じ始めていくのだった・・・
悠人の家庭環境は過酷で同情に堪えないが、主人公の理子にも居場所がない。
高齢になってから彼女を産んだ母親は健康を害してしまい、理子は母親から疎まれながら育ってきた。父親は既に亡く、一回り年上の兄・智己(ともき)は中学校の教師をしているが、まれに暴力的な言動を見せることがあり、理子はいまひとつ信頼することができない。
しかも理子は、あるきっかけから智己がホームレス殺しの犯人ではないかという疑いを持つようになってしまう・・・
理子にとって安息の場所はない。家族にも心を許せず、学校に行ってもクラスメイトからいじめられ、かつての友人の弟からは脅迫を受けて殺人計画に加担させられる・・・というわけで、息が詰まるような描写が延々と続く。
唯一落ち着ける場所は、親友である宮野マキが立ち上げた部活動「ボードゲーム研究会」に参加しているとき。しかしそれも、母に代わって家事をこなさなければならない理子は欠席がちになっていた・・・
物語は、悠人が進める殺人計画の準備を中心に、ホームレス殺しの犯人捜しが絡めて語られていくのだが、とにかく先の展開が読めない。
予想外の事態が次々と起こって読者を翻弄する。ストーリーが進むにつれて、"不幸のデパート"(笑)みたいになっていく理子と悠人の2人の運命。
それは最後の20ページほどの「エピローグ」に至るまで予断を許さない。主人公にとっては過酷なイベントが続き、読み手の胃を痛くする(笑)。
「作者は、どこまで主人公をいじめたら気が済むんだい?」って思うのだけど、だからこそ彼女の行く末を知りたくなる。ページを繰る手を止めることができなくなる。
そして、すべての決着がつくラストシーン。これがハッピーなのかアンハッピーなのかは読む人次第かも知れないが、どちらにしろ納得できる結末ではあると思う。前作の時も感じたが、この作者の "語りのうまさ" は絶品だ。
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