京都東山 美術館と夜のアート



京都東山 美術館と夜のアート (創元推理文庫)

京都東山 美術館と夜のアート (創元推理文庫)



  • 作者: 高井 忍

  • 出版社/メーカー: 東京創元社

  • 発売日: 2019/01/21

  • メディア: 文庫









評価:★★☆





 学芸員志望だったはずが美術館の警備員になってしまったヒロイン。個性的な同僚や上司とともに働きながら、美術品を巡る事件に遭遇していく。





 主人公・神戸静河(かんべ・しずか)は芸術の世界で働く夢を持って学芸員を目指していたが果たせず、市立美術館(通称:市美)の常駐警備員として採用となった。



 ちなみに美術館/博物館の学芸員と動物園の飼育員は、退職で空きができたぶんしか採用しないという狭き門らしい。



 新米警備員となった静河は、同い年だが2年先輩の葉月渚(はづき・なぎさ)、美術館のフロアマネージャーの天城春海(あまぎ・はるみ)など、個性的なメンバーに囲まれて警備員の仕事をこなしている。





「美術館と夜のアート」

 市立美術館の閉館後、深夜になると裏の日本庭園に現れる男がいる。敷地内での野宿は禁止されているので、男性警備員が退去を求めたところ、「新しいアートの構想を練っている」「ランタンの明かりで庭園を眺めるとインスピレーションがわく」と云い、今までに巡った展覧会や美術館の話を止めどもなく話し続けるのだという。ある夜、静河と渚もその男に遭遇するが・・・





「宝船のイースト・ミーツ・ウエスト」

 市立美術館で「浮世絵コレクション展」が開かれている。市美の非常勤学芸員の野澤紗江子は、その中の一枚が東洲斎写楽の作ではないかと言い出す。

 写楽は能役者・斉藤十郎兵衛のペンネームとされているが、別人説も根強くある。野澤は写楽の "正体" についても独自の説を述べ始めるのだが・・・

 写楽はミステリの題材にもなっていて、何作か読んだこともある。本作で野澤が示す "正体" もなかなか面白い。

 本作で分かったことがもう一つ。一般人には ”謎の浮世絵師” として知られる写楽だが、学問の場で ”真っ当な研究者” が「写楽の正体」について自説を開陳すると、"トンデモナイ扱い" を受けてしまうらしい(笑)。そっちの方が興味深かった(おいおい)。





「御神刀リターンズ」

 終戦後、GHQが行った "刀狩り" によって、刀剣類はみな没収されてしまった。愛宕鍛冶神社にあった奉納刀も同じ運命をたどり、その後行方不明となってしまった。

 しかし最近になって一振りの刀が見つかった。"火伏貞宗"(ひぶせさだむね)と呼ばれ、御神刀とされていたものだ。問題は、その刀の真贋なのだが・・・

 本書収録の作品に共通していることだが、本題に入る前が長い(笑)。美術館の仕事や刀剣の由来など、背景を丁寧に描いているのはわかるのだが、本作は特にそのあたりが込み入ってるように感じられた。

 読んでいても「いったい何が問題になっているのか」「どこがミステリとしてのキモなのか」がなかなか飲み込めなかったのには往生した。うーん、自分のアタマの悪さを実感してしまう。





「スウィフティー画談」

 新田穂波は静河の高校時代の友人で、画家を目指して大阪の画廊で働いている。そこへ、コレクターが一枚の絵を持ち込んできた。日本画なのに絵の中にはポーランド語で四行詩が書き込まれており、描かれている風景も1768年のバール要塞(ウクライナの都市バールにあった要塞)での戦いを描いたものらしいと、いろいろ曰くがありそうだ。穂波から相談を受けた静河は、それを市立美術館のスタッフに見てもらうことに。

 落款によると作者は〈翠釜亭(すいふてい)主人〉、描かれたのは寛政7年(1795年)とある。翠釜亭は一般的な知名度は低いが上方最高の絵師の一人とされており、写楽以上にその正体は謎に包まれた人物だという。

 市立美術館のスタッフがああだこうだと議論を交わしながら、真贋を含めて絵の ”正体” を解明していく下りが読みどころ。ラストの一行が効いている。





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