評価:★★☆
「源義経は奥州平泉で死なず、北へ逃亡して蝦夷へ、さらには大陸へ渡って成吉思汗(チンギス・カン)になった」など、「伝説」と「正史」の狭間を巡る物語に、実在の人物を配置した歴史ミステリーを5編収録した短編集。
「琉球王(レキオ)の陵(みささぎ)」
保元の乱で活躍した豪傑・源為朝。彼には、琉球に渡って妻子をもうけ、その子が初代琉球王になったとの伝承があった。
明治38年(1905年)春、日露戦争のさなか、ロシアのバルチック艦隊が日本近海に迫りつつあった頃、連合艦隊司令長官・東郷平八郎は参謀・秋山真之中佐を伴って西表島に上陸した。
2人はそこでアメリカ人特派員ハロルドと出会う。彼は、源為朝の墓がこの島にあるのだというのだが・・・
「蒙古帝(モンゴリア)の碑(いしぶみ)」
11代将軍徳川家斉の治世。江戸を訪れていたシーボルトは、遠山金四郎とともに間宮林蔵に会う。
樺太を超えて大陸に渡った林蔵は、そこで源義経の痕跡と思われる事跡の数々に遭遇したと語るのだが・・・
”義経=チンギス・ハン伝説” の ”そもそもの起源” にまつわる話。
「雨月物語だみことば」
すみません、私にはよく分からない作品でした。高校時代に、もっとよく古典を勉強しておけばよかった?
「槐説弓張月(かいせつ・ゆみはりづき)」
「椿説(ちんせつ)弓張月」は「南総里見八犬伝」で有名な曲亭馬琴の長編小説。「鎮西八郎為朝外伝」というサブタイトルが示すように、源為朝の活躍を描き、最後は琉球王国へ渡って王朝を打ち立てるという伝奇大作だ。
文化八年(1811年)、当時19歳だった遠山金四郎は、あることきっかけに馬琴と知り合い、為朝の琉球伝説についての史実、そして彼の考察を聞かされるのだが・・・
「蜃気楼の王国」
1854年、日米和親条約を締結して日本の開国を果たしたペリーとその艦隊は、帰路の途中、琉球を訪れる。しかしそこで、乗組員の一人が琉球人に殺されるという事件が発生するが・・・
ヨーロッパからやってきた宣教使の一家、さらにはアメリカが抱える黒人奴隷の問題なども絡めて、ミステリとして仕立て上がっている。
しかしその背景には、清国へ朝貢しながら日本国の幕府にも従うという、2つの大国の中で立ち回らなければならない琉球王国の存在があった。
たぶん大学生の頃だったと思うのだけど、高木彬光の「成吉思汗の秘密」を興味深く読んだことを思い出したよ。これは名探偵・神津恭介が、病気療養中の暇つぶしとして義経生存伝説を推理する、という歴史ミステリだった。
義経にしろ為朝にしろ、英雄の生存伝説は庶民の願望が生み出したものだろうけど、本書でその秘密に分け入っていく主人公たちは、それをうまく利用しようとする者たちの存在にも触れることになる。
いままでは「虚か実か」しか考えなかったけれど、本書によって「その伝説が広く伝搬することによって、誰が利を得るのか」という新たな視点を教えてもらった。
ただ、扱う題材によって私の興味の有無が如実に出てしまって、楽しめた作品とそうでない作品の差が大きくなってしまった。歴史に詳しい人ならもっと楽しめたんだろうと思うけど。
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