評価:★★★☆
ノンシリーズものを収録した短編集。ミステリに限らず、いろんなジャンルのものが入っている。
おおむね ファンタジー系 → ホラー系 → ミステリ系 となるような順に並べてあるとのことだが、私の印象ではちょっと異なるものも。
以下の紹介文は、収録順(目次順)ではないことをお断りしておく。
■ラジオでの朗読作品として書かれたもの
「館の一夜」
恋人を連れて東北の旧家を訪ねた民俗学研究者。しかしその帰りに道に迷い、山中にあった無人の屋敷で過ごすことに。
「出口を探して」
迷路の中で意識を取り戻した女性。そこで出会った男性とともに出口を探し始めるが・・・
「謎のアナウンス」
語り手は60代の男性。彼がスーパーマーケットに行くと、毎回同じようなアナウンスが流れるのだというが・・・
どれも短く、ジャンル分けすると即ネタバレになりそう(笑)。
■ファンタジー
「線路の国のアリス」
謎の世界へ迷い込んだアリスが、不思議な列車に乗って旅する話。
■奇妙な味?
「名探偵Q氏のオフ」
名探偵Q氏と助手のF嬢の物語。ラスト2ページの描写は読んでて笑ったけど感心した。書くのが大変だったろうなぁ。
「まぶしい名前」
ショートショート。描いている内容は現代なんだけど、なんとなく昔のSFっぽい雰囲気を感じた。
■ホラー
「妖術師」
町外れの公園で興行を始めた ”妖術師・サンド伯爵”。得意の演し物は人体消失だ・・・
■SF
「怪獣の夢」
アンソロジー『怪獣文藝の逆襲』で既読。子どもの頃から怪獣の夢を見続けていた少年は、大人になった時・・・
■タイポグラフィー
「矢」
タイポグラフィーといえば夢枕獏の「カエルの死」が有名だけど、有栖川有栖が書くとこうなるのか。
■ミステリ
「劇的な幕切れ」
アンソロジー『毒殺協奏曲』で既読。自殺願望を抱えた青年は、同じ思いを持つ女性とネットで知り合い、一緒に ”心中” することになるのだが・・・
「未来人F」
アンソロジー『みんなの少年探偵団2』で既読。
少年探偵団シリーズのパスティーシュ。明智小五郎がアメリカに出かけて不在の時、”未来人F” を名乗る怪人物が現れる。未来に起こることをいくつも言い当て、さらには国立博物館から国宝を盗み出すと ”犯行予告” までするが・・・。
ミステリとして解決するのだけど、ラストでメタフィクショナルな展開が。
「盗まれた恋文」
盗まれた手紙を取り戻した名探偵。しかし彼にはある問題が・・・。文庫で3ページ、しかもミステリなオチという離れ業。
「本と謎の日々」
書店を舞台にした ”日常の謎” ミステリ。作者は元書店員だったので、なかなか面白いネタが。シリーズ化されないかな。
「こうして誰もいなくなった」
文庫で約140ページと、本書の厚さのおよそ1/3を占める表題作。
孤島に10人の人間が集められて、一人一人死んでいく・・・という「そして誰もいなくなった」パターンを有栖川有栖が書くとこうなる。
舞台は伊勢湾に浮かぶ孤島。集められたのは8人。彼らは ”デンスケ” と名乗る謎の人物に呼ばれたのだが、そのデンスケの姿はない。実はもう一人呼ばれるはずで、デンスケを含めて総勢10人だったはずなのだが、最後の一人もなぜか姿を現さない。そして起こる連続殺人・・・
各登場人物が抱える事情も今風だったりして、21世紀の「そして誰もー」になってる。人が死ぬたびに容疑者が減っていくので、犯人を隠すのが難しくなるのだけど、それでも犯人は分からないんだなぁ。さすが有栖川有栖。
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