評価:★★★
時代は、徳川家康が江戸に幕府を開いて半世紀経った頃。
主人公・了助(りょうすけ)は幼い頃、無宿人だった父を旗本奴に殺されてしまう。旗本奴とは、将軍家に仕える青年武士の中で、やさぐれた者たちのこと。現代で言うところのチンピラみたいなものか。
父の仲間だった三吉に引き取られたが、その三吉も、火災で喪ってしまう。明暦3年(1657年)に江戸の町の大半を灰燼に変えた大火災・「明暦の大火」だ。以後、芥(あくた)を運ぶ仕事をしながら我流で木剣の修行をしている。
もう一人の主人公は、水戸藩第二代藩主・水戸光圀。
父・頼綱から隠密組織の立ち上げを命じられた光圀は、親を喪って幕府に保護された子どもたちの中で、特殊な技能を持つ者を選抜し「拾人衆(じゅうにんしゅう)」を結成する。
みざるの巳助。カメラのような記憶力を持ち、1度見たものは絵として完全に再現することができる。
いわざるの鳩。1度聞いた相手の声を、完璧に真似ることができる少女。
きかざるの亀一。並外れた聴力を持ち、遠くの声や会話を聞き、覚えることができる。
「拾人衆」の設立目的は、火付け(放火犯)の摘発。明暦の大火をはじめ、火事は江戸にとって極めて重大な脅威であり、放火は重罪なのだ。
火付けの容疑者・秋山官兵衛を追っていた光圀だったが、その官兵衛が一人の少年に倒されてしまう現場に出くわす。その少年こそ了助だった。
光圀によってスカウトされた了助は「拾人衆」のメンバーとなり、様々な事件に関わっていく、というのが本書のあらまし。
本作はシリーズ化されていて、次巻以降も刊行中だ。
巻末の解説では、光圀と「拾人衆」を ”明智小五郎と少年探偵団” になぞらえているが、あまりそんな感じはしないかな。なんといっても「拾人衆」は子どもの集団なので、凶悪犯と対峙する事件解決の場に至ると、どうしても大人たちの陰に隠れがちになってしまう。
もっとも、二十面相みたいにシリーズ共通の敵も登場するので、あながち間違いでもないかも知れないが。
この作品に登場する光圀は、”ある秘密” を抱えていて、これがシリーズの今後の展開にも関わってきそうだ。
了助に思いを寄せていそうなお鳩ちゃんも可愛い。このあたりの進展も楽しみだ。
作者には、10年前に『光圀伝』という長編があるのだけど、そちらの光圀像ともほぼ同じキャラとして描かれているので、そちらからのスピンオフ、あるいは外伝的位置づけとしても楽しむことができる。
個人的に嬉しかったのは、光圀の正室・泰姫と再会できたこと。『光圀伝』の中でもピカイチに魅力的かつ印象に残るキャラだったので、彼女が登場したシーンでは思わず涙が出てしまったよ(笑)。
『光圀伝』の方も、未読の方がいたら、ぜひ一読をお勧めする。
本作はNHKでドラマ化されてる。私は観てないんだけど(おいおい)。
若き光圀を演じるのは山本耕史。大河ドラマにも出てるね。堀北真希の旦那でもある。泰姫役は松本穂香。『光圀伝』では美人薄命キャラだったけど、こちらはどんなふうに演じてるんでしょうね。
宿敵となる錦氷ノ介は加藤シゲアキ、水戸家家臣役で西村まさ彦、他にも舘ひろし、石坂浩二、北乃きい、中島朋子など。
ちなみに了助とお鳩ちゃんはそれぞれ13歳と11歳の子役の方が演じてるみたい。
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