評価:★★★
横溝正史生誕120年記念復刊シリーズの一篇。
中編2作を収録している。
「魔女の暦」
浅草六区にある紅薔薇座。そこではレビューが行われている。
レビューとは舞台上で行われるショーのことで、例えば宝塚歌劇団やSKDなどがその最たるもの。しかしここで行われているのは、作中の表現によると ”インチキ・レビュー”。いちおうのストーリーはあるものの、メインは女性ダンサーたちのストリップ・ショーだ。
そこに金田一耕助が現れる。彼のもとに、不穏な予告状が届いていたからである。差出人の名は ”魔女の暦”。そこには、この興業中に舞台上で事件が起こると記されていた。
折しも舞台上では3人のダンサーが魔女に扮して踊っている。その1人、飛鳥京子が突然胸を押さえて倒れてしまう。そこにはどこからか飛来したのか、毒矢が突き刺さっていたのだ・・・
ここから連続殺人の幕が開くのだが、それぞれの事件の直前に ”犯人” が自らの犯行計画を紙に記し、それを「魔女の暦」と呼ぶ場面が登場する。
紅薔薇座の3人の女性ダンサーは、それぞれ別々の劇団関係者と内縁関係や愛人関係にあるのだが、それとは別に若手ダンサー・碧川克彦と肉体関係を結んでいる。
なんとも愛欲渦巻く人間関係というわけで、横溝正史はこういうのが好きというか上手いというか。
警察による捜査では、皆目見当がつかず、金田一耕助の推理による解決に至るのだが、そこまでの間に犯人はあらかた目的を達してしまっている。
いつだか「金田一耕助は名探偵じゃない」って書かれた文章を読んだことがあったが、探偵が途中で犯人を止められないのは、ミステリの宿命だよねぇ。
「火の十字架」
こちらの事件も金田一耕助への殺人予告状から始まるが、事件は既に起こってしまっていた。
ヌード・ショーの女王として有名な星影冴子。彼女は3人の情夫を持ち、それぞれに浅草、深川、新宿と3カ所のストリップ劇場を経営させていた。
彼女は1週間ごとに順繰りに3つの劇場に出演し、同時に情事の相手も1週間交代というわけだ。
こちらも、なんともすごい設定。ホントに横溝正史はこういうのが好きというか上手いというか(笑)。
ある朝、浅草の劇場から新宿の劇場へ届けられたトランクの中に入っていたのは、全裸の星影冴子だった。死んではおらず、睡眠薬で眠らされていた。
その同じ朝、浅草の劇場で発見されたのは男の死体。ベッドに縛り付けられ、口に押し込まれたガラス製の漏斗から塩酸を注がれるという、まさに残虐極まりない現場だった。
塩酸によって顔はただれ、相好の区別がつかない。つまり ”顔のない死体” 状態だ。
横溝正史はこういう猟奇的な殺人方法も好きだよねぇ。
さらに殺人は続いていくが、事件の背景には戦時中の出来事が絡んでいるらしいことが分かっていく。
「戦時中」とはいっても、事件の発生は昭和20年代なので、まだ10年は経っていない昔の出来事でしかない。
こっちの金田一は、辛うじて犯人の計画完遂を阻止することに成功するんだけどね。
本書はストリップ劇場というかヌード・ショーがテーマの2編をまとめた作品集、ということなのだろう。
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