評価:★★★
2000年以上もの間、”女王” によって統治されてきたパラレルワールドの日本が舞台。
現女王の妹宮の娘(つまり姪)にして、王位継承権第5位のプリンセス・白桜院日奈子(はくおういん・ひなこ)殿下が、なんと刑事となって若手刑事の芦原直斗(なおと)とバディを組み、凶悪事件と対峙していくシリーズの第3巻。
とは言っても、なるべく王族には危険な現場には出てほしくないのが警察上層部の本音。2人は「特務捜査班」という位置づけだが、要するに通常の捜査班とは別行動になってる。
今回、2人が捜査に加わるのは、ショッピングモールで起こった無差別殺傷事件。外国人の2人組が買い物客に襲いかかり、4人が死傷した。事件後、犯人の1人は死亡したがもう1人はまだ逃走中だ。
犯人はどちらも東南アジアにある北アンプチア共和国の出身。犯行時の状況から、何らかの錯乱に陥っていたと推測されるものの、死んだ犯人の体内からは既知の薬物は検出されなかった。
日奈子は未知の新種薬物の存在を感じ取り、捜査を進める。さらに、事件の背後には外国人排斥を唱える政治家と政治団体も見え隠れするが・・・
後半に入ると、新薬物 ”ステロイドX” の存在が明らかになり、その合成と流通経路を追って、さらなる惨劇を防ごうと奔走する日奈子と直斗の活躍が描かれる。
元薬学系研究者だった著者らしく、薬物関係の描写は手堅いし、得意分野だろう。しかし本書の最大の魅力はやはりヒロイン・日奈子さんのキャラクター。
王族という最高級セレブにして、大学時代に分子生物学を専攻していたという理系女子。才色兼備を絵に描いたような ”お嬢様” なのだが、「国民の生命財産を守りたい」という使命感から刑事となった。
かと言って自分の身分をひけらかすこともなく、特別扱いされることも断るという、ある意味ストイックな行動をしてきたのだけど、シリーズ3巻目となる本書において彼女の行動に変化が起こり始める。
捜査の現場においては、一般人と同じであろうと努めてきた。しかし、王族が捜査に加わっていることが、犯人の逮捕あるいはさらなる凶悪犯罪の予防について有利に働くのであれば、自分の ”身分” の利用を躊躇わなくなってきた。
具体的にどんな行動を起こすかは本書を読んでもらうとして、このシリーズは彼女の ”成長” を描く物語になってきたのだと思う。
一話完結の ”サザエさん時空” ではなく、キャラたちの成長・変化を描いていくのであれば、当然ながらパートナーである直斗もまた変わっていくのだろう。
ならば、シリーズの終着点もまた作者の頭の中には既に構想されているようにも思うが・・・。どのような着地点を迎えるのかは想像できないが、いつの日かそれが語られる日まで、このシリーズにはつきあっていこうと思う。
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