評価:★★★★
主人公は服部政志、33歳。職業はアニメーター。
妻・陽子は35歳。雑誌の編集者だ。大学の先輩でもある。
子どもはいないが夫婦仲は円満、仕事は順調、充分に幸せだ。
2010年3月26日。
陽子は大学時代の友人と共に1週間のハワイ旅行へと旅立った。
1週間の ”独身生活” を手に入れた政志だったが、夫婦が暮らす吉祥寺のアパートに「アリアドネ邦子」と名乗る中年の女性が現れる。
彼女は語る。
「私は40年後、2050年の時空興信所からやってきた。
これからあなたに、15年後の2025年8月23日の予行練習をしてもらう」
この日を境に、政志は坂道を転げるように不幸になり続け、二度と幸福な日々には戻れない人生を送るのだという。
具体的には、この日を境に51歳の陽子の心は48歳の政志から完全に離れ、やがて離婚に至る。政志は死ぬまでこれを後悔し続ける。
依頼者は40年後の、73歳になった政志自身。陽子への謝罪のために全財産を投げ出したのだという。
現在から2025年に至るまでの、政志の辿る人生に起こるイベントを滔滔と語る邦子。そこには、2人が不仲になっていく原因となる出来事も含まれていた。
その言葉に感化されたのか、彼は邦子の言うままに15年後へのタイムトラベルに出発する。
時を超えるのは政志の ”魂” だけ。2025年では48歳の政志の意識に宿ることになる。
そして、8月23日を体験できるのは72回(!)まで。つまり ”あちら側” では72日分の時間を体験するわけだ。
ちなみに ”こちら側” の2010年では72時間、つまり3日間の時間が経過する。
そして ”飛んだ” 先の2025年8月23日。
48歳の肉体に宿った政志は51歳の陽子と対面するが、態度はかなり冷たい。もうかなり愛想を尽かされているようだ。
陽子との仲を修復すべく奮闘を始めるのだが、15年かけてこじれた関係が、たった1日で簡単に覆るはずもない。
回数はたくさんあっても、ことごとく失敗を続けていき(このあたりのドタバタぶりもけっこう笑える)、残り回数もわずかになっていく・・・
というわけで、(個人レベルの)歴史の修復という、タイムトラベルのパターン通りの作品なのだけど、ここで終わればよくある話のひとつになるだろう。
もちろん、最終ターンにおける陽子と政志のドラマは感動的で、これだけでも水準以上の出来だと思うのだけど、実はここまでで本書の約半分。この先も物語はあるのだ。
後半は邦子自身を巡る物語に政志が介入していくことになる。そしてその結果が前半で迎えた結末をさらに上書きしていく。
どういうふうに変化するのかはネタバレなのだけど、そこは本書の評価を見て判断してください(笑)。
作者は宮地昌幸というひと。読み終わってからwikiで検索してみたら、スタジオジブリ出身のアニメ監督さんで、小説も書く人らしい。
ちょっと驚いたのは、2月4日公開のアニメ映画『鹿の王 ユナと約束の旅』を安藤雅司氏と共同で監督しているということ。
この映画に合わせて読み始めたわけでなく、単なる偶然のタイミングだったのだけどね。これも何かの縁でしょうか。
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