評価:★★★☆
24歳という若さで大学教授となった、「黒猫」と呼ばれる青年。
彼と大学の同級生で、大学院生だった ”私” は彼の「付き人」を務めることになる。
この2人(というか主に ”私” )が巻き込まれた事件を、黒猫が解決していく連作ミステリ・シリーズ・・・だったのだが、『黒猫の回帰あるいは千夜航路』において2人はめでたく恋人同士となった。
同時に ”私” は大学院を修了して博士研究員(いわゆるポスドク)となり、「付き人」という立場を離れてこちらも研究者を目指すことになった。
というわけで本書から黒猫シリーズ第二期の開始、ということらしい。
”私” は、自宅のある所無(ところなし)の駅前で、自分にそっくりの女性に遭遇する。髪は白銀色、真っ白の服、白いピアス、白いチョーカー、白銀色のカラコン。ついでにリップも白という、全身白ずくめ。
しかし彼女は ”私” を見つけると逃げ去ってしまう。
ちなみに、「所無」のモデルは埼玉県所沢市と思われる。
〈反美学〉についての論文を執筆中だった ”私” は、学部長の唐草教授から灰島浩平という研究者に引きあわされる。天才だが、傍若無人な振る舞いでも知られている人物だ。
灰島に、自分そっくりの女性について話した ”私” だったが、それはドッペルゲンガー(幻覚)だと断言されてしまう。
肝心の黒猫は滋賀県への出張に出かけて不在。しかも出発前に気まずい雰囲気になっていたため連絡もできない。
しかしその後も ”白装束の私” の目撃者は増え、”私” の家には謎の暗号が記された葉書が届き、ついには母がその女性と会っている場面に遭遇してしまう・・・
犯罪というよりは、”白装束の私” の正体を巡る物語。
とはいっても彼女の正体は何となく見当はついてしまう。作者もそこはあまり隠そうとしていないみたいだし。
それよりも、彼女が ”私” の周辺に執拗に現れる「理由」の方がメインの謎だろう。
毎回のことだけど、美学を巡る蘊蓄の散りばめられた会話は健在だ。
”私” と灰島、”私” と黒猫。議論が白熱するシーンも多々。
ただまあ、私の方にその方面の素養は皆無なので(笑)、なかなかついていくのはたいへん、というかほとんど置いてきぼりなんだけどね。
でも本書をミステリとして楽しむにはそこがわからなくても大丈夫だと思う。もちろん理解できた方がより楽しめるんだろうけど、そこまで分かる人はそんなに多くはないんじゃないかな。
ラストでは、次巻に向けた新しい展開が語られる。
灰島を含めて新しいレギュラーメンバーになりそうなキャラも登場して、ひと波乱ありそうな予感も。
”私” に安息の時が訪れるのはまだまだ先になりそうだ。
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