大癋見警部の事件簿




大べし見警部の事件簿 (光文社文庫)

大べし見警部の事件簿 (光文社文庫)



  • 作者: 深水 黎一郎

  • 出版社/メーカー: 光文社

  • 発売日: 2019/02/22










評価:★★☆



 タイトルの「大癋見」は「おおべしみ」と読む。珍名さんというか実在するかどうかも分からない名字だが、これが本書の主人公、警視庁捜査一課の警部なのだ。



 エリート捜査官かと思いきや、やる気はゼロ。思いつくままの行き当たりばったりの捜査。口を開けば下ネタと暴言が飛び出し、ヒマさえあれば居眠りばかり。もっとも、これはナルコレプシー(嗜眠症)という病気らしいのだが。



 ところが彼が率いる捜査班は検挙率100%という。まあ読んでもらえば分かるが、彼の部下たち(こちらも充分に個性的)の涙ぐましい努力のたまものでもある。



 次に目次の内容を掲げる。あれこれ書くより、これで本書の内容はあらかた見当がつくと思う。タイトルの下にあるのは、副題というか内容説明文というか、要するにそんなものだ(笑)。




「CHAPTER 1 国連施設での殺人」

 最初はやっぱりノックス先生



「CHAPTER 2 耶蘇聖誕祭(クリスマス)の夜の殺人」

 神が嘉し給うたアリバイ



「CHAPTER 3 現場の見取り図」

 そろそろここらへんで密室殺人



「CHAPTER 4 逃走経路の謎」

 加えてさほど意味のない叙述トリック



「CHAPTER 5 名もなき登場人物たち」

 完全無欠のレッド・ヘリング



「CHAPTER 6 図象学と変形ダイイング・メッセージ」

 ヴァン・ダインの二十則も忘れない



「CHAPTER 7 テトロドトキシン連続毒殺事件」

 後期クイーン問題に対して、登場人物たちが取るべき正しい態度



「CHAPTER 8 この中の一人が」

 お茶会で特定の一人だけを毒殺する方法



「CHAPTER 9 宇宙航空研究開発機構(JAXA)での殺人」

 二十一世紀本格



「CHAPTER 10 薔薇は語る」

 〈見立て〉の真相



「CHAPTER 11 青森キリストの墓殺人事件」

 バールストン先攻法にリドル・ストーリー、警察小説、歴史ミステリーおよびトラベルミステリー、さらには多重解決




 この目次と主役の警部のキャラクターを合わせれば、だいたい分かると思うが、本書はミステリーのあらゆるパターンや ”お約束ごと” をテーマにした ”バカミス” の集合体だ。



 例えば「CHAPTER 1」のテーマは ”ノックスの十戒”。(知らない人はググってくださいwww)。

 要するにミステリを書くときの ”10項目の決まりごと” みたいなものなのだけど、いかんせんこれを決めたノックス先生自体がけっこう昔の人なので、現代から見ると「?」な規則もある。



 その中にあるのが「中国人を登場させてはならない」というもの。ノックスがこれを入れた理由を知ったら中国政府が怒り出しそうだけど、そんなことが書けるくらい、世界情勢は今とは懸け離れていたということだ。



 で、この短篇に中国人の容疑者が登場するのだけど、それで警部の部下の江草刑事(本格ミステリマニアという設定)が騒ぎ出す・・・という展開。

 そして最後は脱力ものの結末を迎える。真面目な人なら怒り出すようなオチで、私は田中啓文の作品かと思いましたよ(笑)。



 まあ、一事が万事この調子で、ユーモアとパロディと身も蓋もないギャグに満ちた作品集になってる。とはいえ、ところどころ「はっ」とさせることも書いてるのは流石ではあるけどね。



 けっこうミステリを読み込んでる(それも古典作品から)人なら、充分楽しめるとは思う。


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