カナダ金貨の謎



カナダ金貨の謎 (講談社文庫)

カナダ金貨の謎 (講談社文庫)



  • 作者: 有栖川 有栖

  • 出版社/メーカー: 講談社

  • 発売日: 2021/08/12

  • メディア: 文庫









評価:★★★☆



臨床犯罪学者・火村英生とミステリ作家・有栖川有栖のコンビが
活躍するミステリで、国名をタイトルに関したシリーズの10巻目。




「船長が死んだ夜」

調査の帰りに立ち寄った温泉地で殺人事件に出会う二人。元船乗りという経歴から ”キャプテン” と呼ばれていた男が一人暮らしの家の中で刺し殺されていたのだ。

犯行現場から消えていた ”あるもの” を起点にしていくつかの手がかりがするするとつながって、一気に犯人に辿り着く。

巻末のあとがきに、新本格30周年記念のアンソロジー用に書き下ろしたものある。道理で、謎解きのお手本みたいな作品だ。事件解決後に明らかになる事実が、ミステリに留まらない余韻を残す。



「エア・キャット」

殺人事件の現場を訪れた二人。火村は、本棚にある本の中で夏目漱石の「三四郎」だけが真新しいことに気づく。その帰り、火村の下宿に立ち寄った有栖は、彼の部屋に「三四郎」と書いたメモが落ちているのを見つける。火村によると、前日に書いたものだというが・・・

文庫で20ページちょっとの掌編。



「カナダ金貨の謎」

火村のもとに芳原彩音(あやね)という女性から依頼が入る。同棲中の男性が殺され、彼女に殺人容疑がかかっているという。

被害者の名は楓丹次(かえで・たんじ)。旅先で拾ったというカナダのメイプルリーフ金貨をペンダントに仕立て、お守りと称して常に身につけていたが、それが現場から消えていた・・・

犯人・太刀川公司の側から描く倒叙ものの体裁を取っている。彼はある理由から金貨を持ち去ったのだが、それが回り回って自分の首を絞めていく、というかそれを利用して

火村が彼を追い詰めていく過程がよくできてる。



「あるトリックの蹉跌」

二人の出会いを描いた掌編。こちらも文庫で20ページほど。

有栖が学生時代、講義中に ”内職” して書いていたミステリ短篇。

短い中にも事件の情報が密度濃く書き込まれている力作なのだが火村は犯人をあっさりと言い当てる(笑)。

ラストで、火村はある事実を知って驚くのだが、「そこかい!」(笑)



「トロッコの行方」

ネイリストの浮田真幸(うきた・まさち)が歩道橋から転落、死亡する。発見されたときにはまだ息があり、何者かに突き落とされたと言い残したことから、殺人事件となった。

真幸は愛人・八野勇実(やの・いさみ)の出資で店を持つ予定だった。八野はその資金を捻出するため、金を貸していた手芸家・富塚蝶子に3000万円の借金返済を迫っていた・・・

表題の「トロッコ」とは、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の講義で有名になった「トロッコ問題」のこと。暴走するトロッコの先で5人の人間が暴走に気づかずに作業している。このままでは5人全員が死ぬ。<あなた>の前には支線への切り替えポイントがある。しかし、支線の先にも1人の作業員がいて、こちらも暴走に気づいていない。

<あなた>はどうする? 5人を助けるか、1人を助けるか・・・

この作品のどこが「トロッコ」なのかは、かなり後になって分かるのだが強いてトロッコに絡めなくてもいい内容ではないかとも思った。

容疑者は複数浮かぶものの、どれも決め手を欠く展開の中で火村の推理の切れは毎度のことながら鮮やか。そして、犯人の動機の身勝手さが印象に残る。


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