交換殺人はいかが?




交換殺人はいかが? (光文社文庫)

交換殺人はいかが? (光文社文庫)



  • 作者: 章子, 深木

  • 出版社/メーカー: 光文社

  • 発売日: 2018/04/12

  • メディア: 文庫






評価:★★★★



定年退職した元刑事・君原継彦は3年前に妻を亡くした独居老人。

たまに遊びに来る小学6年生の孫・樹来(じゅらい)の

相手をするのが唯一の楽しみだ。



 ちなみに樹来は男の子。そして3歳下の妹は麻亜知(まあち)。

 誕生月に由来するのだが、まあ今風な名前ではある。



樹来の将来の夢は推理小説作家になること。

孫にせがまれるままに、現役時代に彼が関わった事件について話す君原。

もちろん、既に解決している事件ばかりなのだが、

それを聞いた樹来は、こんな言葉を返す。

「僕は、そんなことじゃないと思うんだけどなあ」



安楽椅子探偵としては、樹来君は最年少の部類に入るんじゃないかな。

12歳の少年が、過去の事件に潜む秘密、真相を説き明かす。




「天空のらせん階段<密室>」

らせん階段を持つペンションのオーナーの撲殺死体が発見されるが

現場に凶器はなく、人の出入りもできない密室状態だった・・・



「ざしき童子(ぼっこ)は誰?<幽霊>」

薬物中毒症の大学生5人が、売人が大麻を保管している倉庫に

押し入るが、そこで銃声が響く。

慌てて逃げ出す彼らが見たのは、仲間の一人が崖から転落するところ。

しかし逃げ延びたあとで確認したら、5人とも全員無事に揃っていた。

ところが翌朝、現場近くの海で発見された死体は

逃げ延びたはずの5人のうちの一人だった・・・



「犯人は私だ!<ダイイングメッセージ>」

地方の名家・河南(かわみなみ)家で起こった殺人事件の現場には

被害者が自ら書き残したと思われる血文字で「はんにんはわたしだ」。



「交換殺人はいかが?<交換殺人>」

私立女子高校の生徒二人が、昼食の弁当を食べた直後に急死した。

二人の弁当には猛毒のトリカブトが混入されていたが

彼女たちには接点が全くないことから、交換殺人が疑われる・・・



「ふたりはひとり<双子>」

旧家・本郷家の19歳の当主・秀重(ひでしげ)が刺殺された。

その数日後、新田綾と名乗る少女が現れるが、その姿は

秀重の双子の妹・富久子(ふくこ)と瓜二つだった・・・



「天使の手毬唄<童謡殺人>」

同族経営企業・天志産業にまつわる連続殺人事件。

現場に残された紙片には ”数え歌” の歌詞が・・・

ちなみに、作中に出てくるこの数え歌、

作者の創作ではなくて実在するもののようです。




平均して文庫で50ページほどの作品ばかりなのだが

ネタは重量級が揃ってる。



表題作の「交換殺人-」は終盤まで二転三転、意外な終着点を迎える。

犯人の並外れた狡猾さも特筆もの。

巻末の解説にもあるが充分長編になるネタだ。



「犯人は私だー」は、旧家の遺産相続争い、

「ふたりはー」も、旧家に潜む血の秘密とか、横溝的雰囲気も充分。

この2作も長編でたっぷり楽しみたいと思わせる。



主役の樹来君は、”見かけは子供、頭脳は大人” の某有名少年探偵(笑)

とは違って、こちらは生粋の小学生・・・のはずなんだが、

彼の知識や洞察力は半端な大人を凌駕する。

なんとも末恐ろしいお子さんである。



本書には「消えた断章」という続編があるのだが、

こちらは長編で、扱っているテーマは誘拐。しかし一番驚くのは

前作から10年後の話で、樹来君が22歳の大学4年生になっていること。

いやはや、いろんなところで驚かせてくれる。

これも手元にあるので、近々読む予定。


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